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川村 晋策 稿
「租税条約における仲裁制度の現状と課題」

(慶應義塾大学大学院 院生)

 本論文は、OECDモデル租税条約を研究対象としつつ、租税条約における仲裁制度の沿革、概要を紹介するとともに、租税条約における仲裁制度の課題を検討することを目的とする。第1章では、租税条約上の紛争解決手段をめぐる歴史的展開状況を踏まえて、1920年代以降、2008年にOECDモデル租税条約に義務的仲裁条項が導入されるまでの経緯を検討する。第2章では、まず、二国間租税条約における仲裁手続に焦点を置いて、2014年OECDモデル租税条約における仲裁条項と合意見本に依りながら、同条約における仲裁手続の流れ(具体的には、相互協議前置主義、付託事項の決定と仲裁委員会の設置、仲裁委員会の審理と決定、仲裁決定の実施)を追う。それとともに、アメリカ、ドイツ、オランダ主要国の仲裁制度に係る租税条約政策と、日本、イギリス、ドイツを含めた主要国の展開(跛行的法状態)を紹介する。次に、多国間租税条約に目を転じ、仲裁手続の概要をOECDモデル租税条約と比較しながら紹介する。また、EUにおいてはEU仲裁条約上の紛争解決手続があるが、同手続は二国間租税条約の不足を補完する関係にあるとの理解を示す。併せて、欧州司法裁判所(ECJ)の判断と租税条約上の仲裁との関係についても言及し、ECJに事案が付託された場合は、ECJの手続規則に則り、仲裁手続が進行することを指摘する。第3章では、国際商事仲裁など、他の法領域における紛争解決手続との比較研究を試みる。具体的には、国際商事仲裁裁判所による仲裁手続、投資協定上の仲裁手続、WTOにおける紛争解決手続を取り上げ、それぞれ紛争解決手続の流れに従い検討をする。わが国の租税条約仲裁と他の紛争解決手続との関係について言えば、相互の抵触を避けて租税条約を優先させるケースや投資協定や経済連携協定の適用除外を定めるケースなどが紹介されている。第4章では、本論文の中心的論点として、租税条約における仲裁制度の課題を検討する。具体的には、まず、仲裁付託の対象事案とそれに該当しない事案(条約の規定に適合しない課税、「課税を受けた」のか否かなど)を検討する。次に、租税条約仲裁における非公開性(審理過程の秘密性と納税者の手続参加、租税条約仲裁の非公開性など)と透明性(仲裁決定内容の公開など)について検討を加える。さらに、仲裁規則違反の仲裁決定に対する救済方法として、仲裁決定の取消制度およびそれ以外の救済方法を具体的事例に基づき検討する。

 2008年のOECDモデル租税条約への仲裁規定の導入は日本の租税条約政策を大きく転換させたが、筆者の見通しとしては、今後も各国が租税条約を締結・改正する際には、OECDモデル租税条約を雛形とする仲裁条項が導入されるとの考えを抱いている。ただ、わが国の場合で言えば、諸外国と比べ「議論の成熟度には大きな隔たり」があることから、今後一層の議論がなされることを期待する。

 民事訴訟の分野ではともかく租税法や租税条約をめぐって、従来の公表文献で、それほど注目されず、まとまった議論も十分になされてこなかった仲裁制度を取り上げた貴重な論稿である。独自性の高いテーマにもかかわらず、先行研究を丹念に検証しており、全体に堅実な作品となっている。とりわけ、多くの外国文献を渉猟した上で丹念に読み込んでいることは注目される。併せて、表現の明確さや自らの結論を導き出そうと努力していること、内容的なレベルの高さなど、多くの観点から見て高い評価を与えうる作品となっている。



論 文(PDF)・・・・・・1.21MB


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