公益財団法人租税資料館


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上村 敏之、足立 泰美 著
『税と社会保障負担の経済分析』
(関西学院大学経済学部教授、甲南大学経済学部准教授)
平成27年11月 (株)日本経済評論社

 本書は租税(所得税・法人税、消費税)や社会保険料の経済的効果(負担構造や投資行動など)に係る良質な実証分析である。第1章では「民間給与実態調査」のデータを用いて所得控除による税収ロスや税率の引き上げが税収に当たる効果を厳密に実証している。所得階層間では所得控除が高所得層に有利に働くこと、狭い課税ベースを前提にすれば累進課税の強化は税収をさほど増加させないことを示している。続く第2章では消費税を含む間接税の負担構造を明らかにしている。消費税の「逆進的」な負担構造は周知の通りだが本研究の特徴は酒税など他の間接税も考慮して所得階級別の負担比率を試算しているところにある。第3章は法人税の(減価償却当を加味した)経済的実効税率の推移と設備投資に与える効果を実証している。1990年代以降、実効税率に対する設備投資の弾力性が低下していること、つまり、法人税率の引き上げが設備投資を大きく拡大させる状況ではなくなっていることは興味深い。

 第4章・第5章は社会保険料の課題を取り上げる。制度上、社会保険料は保険給付への対価として(反対給付のない)税とは区別されるが、その実態(再分配的な構造)は税の性格に限りなく近い。これらの章では医療・介護の社会保険料の地域間格差を分析し、受益と負担のかい離も明らかになっている。格差の要因の詳細を明らかにするほか、保険料の負担軽減や「受益の適正化」が地域間格差に与える影響を試算しているところが特徴といえる。第6章は「全国消費実態調査」の個票データを用いて所得課税・社会保険料の再分配効果を検証している。(所得税等)所得課税は所得格差を縮小するという意味で再分配的である一方、社会保険料は格差の拡大要因になっていることが示された。また年代の推移とともに世代間格差より(高齢者・若年世代で)世代内格差が広がっている実態も明らかにした。最後に第7章では国民健康保険料の徴収率の要因を実証している。市町村国保は他の保険制度に比べて徴収率は低い。保険料か保険税かの制度の違いは徴収率を有意に変えないこと、特別調整交付金のような収納率へのインセンティブ付与が有効に働くことを示している。このように本書は税・社会保険料を「網羅的」に分析した良書といえる。高い分析の手法・データの構築も手堅い。

 従前、税・社会保険料は制度の理念先行で議論がなされる傾向にある。しかし、本来は実態=エビデンスに基づく「政策評価」と制度の見直しが必要である。本書はそのエビデンスを与えている。他方、データが古い(例えば、法人税の分析は2005年度まで)ことが気になる。近年の法人税改革(法人税率の引き下げ)や医療費適正化(地域医療構想、市町村国保の都道府県への移管)を反映した経済分析のアップデートが期待される。


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