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浅井 佐紀子 稿
「医療機関の控除対象外消費税に関する一考察」

(立命館大学大学院 院生)

 本論文は、消費税の10%への引き上げ改正に伴い、医療機関が高額の医療機器等の仕入に際して負担している消費税額が、保険診療行為が非課税取引とされているために控除できないという不利益扱い(「控除対象外消費税」と呼ぶ)をテーマとし、その解決策を諸外国の制度との比較を通じて検討するものである。筆者は、我が国が参照すべきモデルとして、英、豪、加の3か国の制度を比較検討し、最終的には加が導入した仕入れ税額の83%をリベートとして割り戻す方式を推薦している。

 まず第1章では我が国消費税法における非課税制度及び輸出免税にみられるゼロ税率制度の間での仕入れ税額控除の効果の差異を事例を用いて解説している。そのうえで、控除対象外消費税問題は、医療費の公定価格を決定する際に考慮されているという事情を検証し、それでもなお、高額医療機器に多く依存する我が国の民間医療機関にとって、改善すべき不公平がある旨を検証している。第2章では、それへの対策として、我が国と同様の非課税制度を取る英国は、ほとんどが財政支援を受けうる公立病院であること、高額機器の導入が少ないことなどから、我が国の課題に答えるものがないとしてまず切り捨て、豪のゼロ税率と加のリベート制度が比較検討された。両者の検討にあたっては、帳簿方式との整合性の観点や租税回避への耐久力の観点から、リベート方式を推薦している。

 筆者のテーマ選択自体に時事性、新規性があるものの、我が国ではこの問題の税法学者による先行研究は必ずしも多くはなかった。その意味で、処方箋の比較検討は難しかったと思われるが、参照すべき制度の選択が特徴的な3か国を抽出した点で適切であるのに加えて、この問題を論じた海外文献も十分に渉猟しており、処方箋の選択過程に説得力を付加している。

 全体として、消費税の非課税制度がもたらす課税の累積問題をはじめとして、医療機関の直面する問題意識が明確に説明されており、問題分析のために必要な医療制度の実体分析も踏まえた筆者による控除対象外消費税問題へのアプローチの必要性の主張は、合理的に展開されている。なお、その解決策の絞り込みに向けた論理展開(ゼロ税率の持つ政治的圧力に対する脆弱性など)も説得力を持っている。

 新制度導入対象にあたっての2条件(@現時点での非課税業種に限ること、A公定価格となっている業種に限定すること)の指摘も適切と思われるが、仮に導入された場合の、マイナンバーの活用など執行面での効率化に向けた検討や提言も含まれるとなおよかったと思われる。しかし、全体としてみると論理性・実証性・独自性を兼ね備えたコンパクトに問題点の指摘と処方箋の提示に成功した論文と評価され、租税資料館奨励賞にふさわしい内容と判断される。


論 文(PDF)・・・・・・942KB



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