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伊藤公哉 著
『国際租税法における定式所得配賦法の研究』
 ―多国籍企業への定式配賦法適用に関する考察―』
(成蹊大学経済学部准教授)
平成27年4月 (株)中央経済社

 本書は、独立企業原則が直面する適用困難性や租税回避の問題等を踏まえ、独立企業原則に代えて定式配賦法を用いることについて、米国の州所得税の創設時から現行制度に至る経緯についての検討に加えて、近年、共通統合法人課税ベース(CCCTB)の導入に向けて取り組むEUにおける検討状況を素材として基礎的考察を行い、その上で、多国籍企業についての課税方法として2層構造の定式配賦配法についての提案を行うものである。

 本書は5つの章で構成されている。第1章では、1900年代初頭における米国の州法人所得税の成立経緯を考察し、その過程で直面した課税管轄権の課題として、法人所得を各課税権管轄に分割する必要が生じ、定式配賦法が採用された経緯を明らかにする。第2章では、各州の定式配賦法の計算式及びその配賦要素が収斂する過程を当時の史料を用いて検討し、定式配賦法の配賦計算式の統一化に向けた過程を明らかにする。第3章では、州法人所得税における合算の目的と機能を考察し、定式配賦法の適用のための連結・合算範囲の検討を行う。以上の米国における州所得税の展開の考察に加えて、第4章では、EUにおける定式配賦法の導入の議論を考察し、制度設計に当たっての知見を得ている。その上で、第5章では、多国籍企業についての課税方法として、通常所得の配賦に係る配賦計算式と超過所得の配賦に係る配賦計算式の2層構造の筆者の新たな定式配賦配法の提案を結論としている。

 定式配賦法について先行経験を有する米国の州所得税及びEUのCCCTBの導入の議論を踏まえて、筆者としての定式配賦法の提案を行うもので、比較法研究の基本に忠実である。特に、米国の州所得税の形成経緯における失敗を教訓として、EUにおいては加盟国の協調重視の姿勢を貫いて、制度の詳細を統一化し、例外を極力設けない方針を維持している点の重要性を指摘する点は、筆者の鋭い洞察と思われる。

 また、結論として、多国籍企業の無形資産の重要性に鑑み、通常所得と超過所得の2段階配賦を提言する。近年の取引理論等に代表される超過所得論をベースとしており、学問的には支持が多い方向性と評価できるものである。

 このように、一貫した問題意識の下、各章の論述が有機的に連携して結論を導くように構成されており、租税資料館賞に値する研究成果として評価されるところである。

 なお、論文の執筆時期の関係上、本書では、EUにおけるその後の議論の停滞やOECD/G20のBEPSプロジェクト等の近年の重要な動向は反映されていない。新たな国際課税原則としての定式配賦法に関して、我が国を含めた世界的なレベルで論ずるためには、このような動態的な展開を踏まえた考察は必須と思われ、今後の更なる研究が期待されるところである。


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