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長戸貴之 著
『事業再生と課税―コーポレート・ファイナンスと法政策論の日米比較―』

(学習院大学法学部准教授)
平成29年2月 (一財)東京大学出版会

 本書は、事業再生局面における再生企業の課税関係の考察を目的とする。従来の議論が、債務免除(消滅)益の取扱いを中心としていたのに対し、筆者は市場メカニズムを活用した事業再生手法を念頭に、再生企業の課税関係についての政策論的考察を行う。「平時における規律から括り出された」企業再生税制の在り方に着目する従来の研究に対して、本書は、平時における規律との連続性や倒産前の企業・株主・債権者へのインセンティブなどの「事前の観点」にまで分析対象を拡げて企業再生税制の在り方を検討しようとする点が、特色的である。

 本書の構成は、その目的・考察対象・分析視点を確認する「序」に続く4編からなる。第1編では、わが国企業再生税制の内容を確認し、法形成過程と沿革を辿り、アメリカ法と対比してどのように評価しうるかという問題設定を提示する。第2編では、判例等の検討を通じて、基本構造形成前のアメリカの企業再生税制の法形成過程を追っている。そこでは企業破綻処理制度、法人課税の法形成過程、立法による対応等を考察する。筆者の関心は、企業の財務リストラクチャリングからクレーム・トレーディングという新たな事業再生手法にまで及ぶ。また、2008年以降の金融危機へのアメリカ政府の対応を題材に事業再生手法と企業再生税制との関連性に考察し、アメリカの企業再生税制の特徴を指摘する。第3編では、租税欠損の取扱いや企業の資金調達方法に着目しつつ、事前の観点から企業再生税制の機能的分析を試みる。第4編では、それまでの検討を踏まえて、企業再生税制を評価し、さらなる改善に向けての考慮事項を整理する。

 筆者の構想は、企業法と租税法の統合的な政策論の構築に及ぶ。そのため筆者は、分析作業手順とその意味を丁寧に確認しつつ、検討を行う。筆者自身が、議論の難解さを意識しているせいか、各章、各編にわたり、基本的な問題意識と作業の目的、全体の議論との関連性を跡づけながら慎重に作業を進めている点が印象的である。本書は、これまでの議論を整理するに止まらず、法制度研究の基本的視座を提供する側面をもつ。

 もっとも、結論においては将来の検討に委ねる傾向も見られる。また、現行税制として採り上げている問題の狭さや、アメリカ税制との比較検討に物足りなさを感じる向きもあろう。ただし、本書が今後の企業再生税制研究における貴重な基本的研究書として十分評価されうる力作であることは否定できない。租税法研究の手法に一石を投じると共に、筆者のこれからの租税法研究に大いに期待を抱かせる一書である。


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