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中田日奈子 稿
「租税法における時効制度の存在意義
 ―民法における時効制度との比較の観点から―」

(税理士、名古屋商科大学大学院 院生)

 本論文は、国税通則法72条3項の国税徴収権の時効に関する民法準用規定の存在意義に問題意識を持ち、租税債務の消滅要因の一つとされる徴収権の消滅時効について、民法の時効制度の趣旨を踏まえながらその特殊性を判例研究もベースに明らかにするとともに、税理士の立場を踏まえて民法準用にあたっての課題を提示しようとしたものである。

 著者は、租税法における援用を必要としないという時効の絶対的効力は、@納税者の意思次第で取り扱いを異にすることから生じる課税関係のいたずらな複雑化を避けること、A法的安定性と事務処理の画一性という租税法の要請、の2点に根拠があるとして、民法の時効制度を準用することの限界を提示し、その点で更なる法的整備が求められると主張している。

 検討が始まる第1章では消滅時効制度の前提となる納税義務の成立・消滅の制度の概要を解説し、第2章では国税に関する各種の期間制限の中で徴収権の消滅時効の位置付け及び特色を確認し、さらに第3章では時効の中断、不進行と停止の要件を税法上検証した。ここまでは、すべて現行制度の解説が中心となっており、特に斬新な分析がみられるわけではない。

 著者の問題意識の分析は第4章に始まる。民法の時効制度との比較で法的安定性や事務処理の画一性という公法としての要請下にある租税法の下では、時効制度がどのように位置づけられているかの民法制度との比較分析であり、著者の独自性が表れる分野である。これを受けた第5章では、時効中断要件や還付金請求権の時効起算日について判断を下した諸判例の分析を行って、時効の中断、不進行等という民法と共通する法的効果の具体的適用要件につき、解釈は必ずしも一義的ではなく一般の納税者にとっては判りにくいと問題提起をした。最後に民法改正も踏まえた税制改正の必要性を示唆して論文を結んでいる。

 本論文で評価すべき点は、まず、民法準用規定の適用の限界を公法である租税法の趣旨目的に照らして明らかにするとともに、徴収権時効制度がそのようなものとして現実に機能している点につき一般納税者が十分な認識を持たないで課税庁に応対しているリスクを、紛争解決に当たる税理士の観点から注意喚起した点である。5章における判例分析の視点は、そのような問題意識を反映して明確であり、4章の民法との比較分析と十分な連携を保っており、論旨に一貫性が認められる。納税者の盲点になりそうな論点を抽出した点は、実務家独自の健全な視点であり論文テーマとして適切と考えられる。これらの点を総合し、本論文は租税資料館賞にふさわしい専門家論文と評価された。但し、その過程では先行研究の問題意識に依存している部分が一部認められるとともに、判例分析では準用の視点を踏まえた現行法解釈の問題点指摘にとどまっており、結論的には立法的解決の必要性を示唆するところで終了している。具体的処方箋の検討まで一歩進めるためには、外国法との比較法研究等の手法も求められよう。


論 文(PDF)・・・・・・728KB


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