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森田 輝 稿
「相続税法と契約解除の遡及効に関する考察
 ―相続開始後に売買契約を解除した事例を素材として―」

(名古屋学院大学大学院 院生)

 本論文では被相続人が売買契約中に亡くなくなり、相続人が売買契約を解除した2つの事例、すなわち「広島事件(広島地方裁判所平成23年9月28日判決)」と「平成15年事件(国税不服審判所平成15年1月24日裁決)」を素材にして、相続税法と契約解除の遡及効について考察している。

 広島事件は、被相続人が相続税の納税資金の調達のために締結した土地の売買契約を、相続開始後に、相続人が納税資金の調達が不要となったことを理由に解除した事例であり、平成15年事件は、被相続人が締結した土地の売買契約を、相続開始後に相続人が買主側の履行遅滞を理由に解除した事例である。

 相続開始後に相続人が契約を解除することによる相続財産の変更を認めると相続人による課税価格の操作を可能にし、租税公平主義に反すると考えられ、その点からは広島事件において納税者が勝訴したことに問題がないわけではない。その点、平成15年事件は、解除理由が買主にあったことから更正の請求規定を根拠として契約解除の遡及効を認めていることは妥当といえよう。ただ、更正の請求をする者は、契約を解除された側の当事者でなければならず、解除する側の当事者であってはならないのが通説であって、あくまでも特例でもって遡及効が認められているのである。また、相続開始後の相続人の意思による契約解除によって、契約の効力は遡及して消滅せず、相続時開始時の相続財産に影響を与えるべきではなく、相続開始後に売買契約が解除された場合(相続開始後に契約が解除されなかったとき)、相続財産は売買代金債権であり、その評価は取引価額によるものとしている。

 筆者は、担税力と課税の公平性から、あるいは予測可能性と法的安定性を要請する租税法律主義の観点から、納税義務成立後又は法定申告期限後の納税者の意思による課税要件の変更を認めるべきではないとしている。

 国税通則法第23条第2項及び同法施行令第6条第1項2号の文理解釈の観点からは、更正の請求をする者は、契約を「解除され」た側の当事者でなければならず、決して「解除する」側の当事者であってはならないことになるが、実体的真実主義からの観点からは、形式的・画一的制約による不合理な結果、すなわち納税者に不当な税負担を強いるのであれば、個別的な納税者の救済のために、納税者にとってやむを得ない後発的な事情によって課税要件事実が形成された場合に限って相続開始時の課税要件事実の変更が認められるべきとしている。

 結論を導くに当たって、ただ単に条文を形式的に解釈すべきでなく、実質に十分配慮した検討がなされるべきことを主張し、租税法律主義と租税公平主義とのバランスに配慮すべきであるとしている。説得力のある構成内容で、論旨も終始一貫しており、評価に十分値する論文といえよう。


論 文(PDF)・・・・・・722KB


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