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第3回ACE(All China Economics) International Conferenceに参加して(2009/12/18)

徳島大学大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部准教授
石田和之

 このたび、財団法人租税資料館からの資金援助を得て、香港城市大学APEC研究センターに客員研究員として滞在し、(1)第3回ACE国際会議に参加するとともに、(2)財産税の研究を行なう機会を与えていただいた。ここでは、国際会議に参加した結果を報告する。

 第3回ACE国際会議は、2009年12月14日から16日までの3日間、香港城市大学にて開催された。3日間の間に、約300名の参加者、約160本の研究発表、3回の基調講演、1回のパネルディスカッションが行なわれた。これらのプログラムの企画や研究発表のセッション配分など会議の運営全般を、Li准教授が担っている。Li准教授は、香港城市大学APEC研究センターのディレクターでもあり、また、私を客員研究員として受け入れてくれる世話を焼いてくれた先生でもある。

 会議の開催される1週間ほど前、Li先生は「新しいプログラムを見たか?」と言った。「もちろん、見ました。私の役割が増えていました。」と答えると、「他の参加者は忙しいと言うんだ。きっといろんなところを観光したいのだろう。君は香港に長くいて時間があるだろうから、お願いするよ。」と笑顔でLi先生にお願いされた。結局、セッションの司会を2つ、討論者を3つ引き受けることになった。自分自身の発表を含めると、全部で6つの務めを果たすことになる。お世話になっている先生である。快く引き受けた。あとでよくよくプログラムを確認すると、約300名の参加者の中で(おそらく)もっとも役割が多いことがわかった。

 私の発表は、初日の午後のセッションだった。このセッションでは、司会と討論者の役も同時に務めた。セッションのタイトルは「課税の経済」である。私は、このセッションの第1報告として、「日本における地方税の伸長性と安定性」についての発表を行なった。固定資産税以外の地方税(住民税、事業税)は伸長性にも安定性にも欠けるというのが主要な結論である。フロアからは、「結果は非常に興味深い。経済成長率や地方税収全体のポートフォリオを論文の冒頭で説明してほしい。」とのコメントがあった。彼は、私が参考文献として挙げた文献の著者たちと友人であることが後にわかった。友人が開発した手法(彼らはアメリカの税制に対する分析に用いていた)を日本の税制に応用した分析を報告するということに興味を持って、私の報告を聞きに来てくれたようである。(本人でないのは残念ではあったが、とはいえ)参考文献で挙げた著者やその研究仲間たち、そして同じ研究上の関心をもつ他の研究者たちと出会いディスカッションを行なうことは、国際会議で論文を報告することで得られる楽しみのひとつであるし、喜びでもある。第2報告は、スウェーデンから参加したオロフスドッター教授の「海外直接投資の決定要因としての租税と集積」であった。租税競争の理論を応用して小国経済に対する海外直接投資の決定要因を実証的に分析していた。ヨーロッパの小国をイメージするとき、いつも思い浮かぶのは、「日本は本当に小国だろうか?」という疑問である。小国経済モデルを使った分析は、日本経済には馴染まないのではないだろうかとの懸念を感じる。(翌日の半日ツアーで一緒になったエストニア銀行の研究者によると、エストニアのGDPは70%がEUとの貿易で構成されており、金融政策の自立性もほとんどないとのことだった。まさに小国経済の典型だと感じた。)第3報告は、林田実教授(北九州市立大学)・大野裕之教授(東洋大学)による「キャピタル・ゲイン税と個人取引:日本の事例」であった。この報告は、2003年度のキャピタル・ゲイン税の改正が個人投資家による株式の購入を促す効果があったことを実証的に示すものであった。第3報告に対する予定討論者は私である。実証分析において国税(所得税)と地方税(住民税)をどのように扱っているのかとコメントした。両教授は、私と同様に、租税資料館からの資金援助を得た経験のあることが、後にわかった。これも租税資料館が取り持つ縁のひとつである。

 初日の夕食は、ウェルカム・レセプションのディナーである。国際会議では必ず開催されるものであり、参加者同士の交流のきっかけとして機能している。円卓に10名程度が着席し、中華ディナーを囲んでの交流である。ちなみに私のテーブルは、中国、フィリピン、イタリア、カナダ、台湾、香港、チリ、オーストラリアであった。

 2日目には、農業経済のセッションで討論者を務めた。河野秀孝教授(青森公立大学)による「農産物市場の開放が日本の農業に与える影響」についての実証研究に対する討論を行なった。日本の農業の特徴(規模が小さいこと、兼業農家が多いこと)を分析においてどのように考慮しているのかなどの視点からコメントを行なった。

 3日目は、ミクロ経済学のセッションで司会と討論者を務めた。私が討論を行なったのは、リー・サンホ氏・パク・チュルヒー教授(チョンナン大学)による「自由参入の下での寡占市場における2段階汚染税」についての報告である。寡占市場における汚染税の効率性を理論的に分析した論文である。寡占市場においては、企業に対する補助金と汚染税の2つを組み合わせた「2段階汚染税」を用いることが効率的であるとの報告であった。寡占市場という設定が汚染税の構造に直接的な影響を及ぼしていない分析になっているのではないかとのコメントを行なった。

 (自分自身の報告を含めて)6つの務めを1度の会議でこなすというのは、これまでにない経験である。発表論文を事前に送ってもらい、十分に読んだ上でセッションに臨むことができるのは、討論者の特権である。(当日、はじめて論文を入手する場合も多い。)また、他の参加者に先駆けて質問をする機会が確保されているのも討論者の特権である。もちろん、質問にはきちんと答えてもらうことができる。さらに、(本来はいけないことかもしれないが)報告内容やディスカッションの内容に興味があるとき、セッションの進行に多少の融通を利かせることができるのは司会の特権である。務めが多いのは負担が多いともいえなくともないが、今回の国際会議では、この特権を十分に活用することができた。私自身にとって、とても有益な会議であった。

 このような機会を与えていただいた財団法人租税資料館には多大な感謝を感じている。




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