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長澤 昇平 稿
「Asymmetric Cost Behavior in Local Public Enterprises
  ―Exploring the Public Interest and Striving for Efficiency―」

(横浜市職員/首都大学東京大学院 院生)
平成30年12月 Springer『Journal of Management Control』Vol.29No.3-4掲載

 本論文は、日本の地方政府が設立する公企業の非対称的なコスト行動を分析する、5章から成る英文論文である。本論文が英文で執筆された理由は、わが国は地方政府が(上下水道、交通、電気、ガス、病院などの)公企業経営を行う世界でも有数の存在でありながら、過去においてはinstitutional theoryに基づく公企業に対する行動制約状況を分析して発表した学術研究が少なかった事情などから、海外への発信を目的としたのではないかと推測される。

 まず筆者は、公企業が効率性と公共利益という二つの規範的要請の下にあることを指摘する。そして、利益が見込めない状況でもサービスを提供すべきであるという使命の存在や、そのような使命の下での規範的な制度的圧力が、地方公企業(LPEs)のコスト効率を果たして悪化させてきたのかどうかという問題設定をする(第1章)。

 次に筆者は、研究の背景と先行研究の紹介を行う。分析の順序としては、@地方公企業の性格、ALPEsが直面する組織的制約(Institutional constraint)、BLPEsのコスト対応(cost behavior)、Cこれまでの学説の動向、の各区分に沿って紹介を行っている。検証過程では、著者自身が設定した@コストの硬直性はLPEsでより顕著である、A組織的圧力は民間企業よりもLPEsのコスト対応の変化により関連している、BLPEsのコスト対応は民間と同様、産業セクターごとに異なる、CLPEsのコストの硬直性は1995年以降人口変化に強く影響されている、DLPEsの管理者は4年の任期内で長期的なコスト対応の安定化を図っている、という5つの仮説を挙げてデータ分析の検証対象とする(第2章)。

 多くの事業年度の分析対象データをAndersonらによる分析モデルを用いて分析した(第3章)結果、筆者は、仮説@については設定とは逆の結論が得られ、仮説Aは2000年以後に妥当し、仮説Bについては独占事業と福祉事業との間のコスト硬直性の相違が検証されたとする。仮説Cについては、人口変化とコストの硬直性との関連性が確認され、仮説Dについては、政治家の圧力による4年の任期制が、不均衡なコスト対応を解消させていることが検証されたとする(第4章)。結論として筆者は、分析結果によれば、公企業のコストマネジメントは、必ずしも非効率的ではなかったが、将来は、コスト調整能力は制度的要請の影響で失われるであろうと予測し、将来への提言として、公益と効率性のバランス確保に向けた経営者の努力が求められるとする。検討過程では,特にコストの硬直性に焦点を当て、@過去40年間にわたるデータ、Aその間の変化、B産業別の相違点、C人口変化との関連、D政治の影響効果次第という5つの切り口で綿密な検討をしており、とても有意義な検証結果が得られたと認められる。もっとも、費用の効率性に関する通常の検証方法であるDEA法への言及がなされていない点など、若干説明不足なところや、ある程度予測された提言内容となっていたりする面があることは否定できない。ただし、国内文献が少ない中で、自分なりの仮説を立てて、データ検証を駆使した手法を用いて積極的に海外に発信しようとしている意欲は、十分に評価しうる。論旨も明快であり、全体に説得力を持つ。


論 文(PDF)・・・・・・871KB


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