伏見 俊行・姜 莉・江 心寧 著 「最新中国税制ガイド」

伏見 俊行・姜 莉・江 心寧 著
「最新中国税制ガイド」

(株式会社日本経済新聞社 平成9年1月刊)

 本書は、中国における税制、税務行政全般を紹介した体系的解説書であり、日本の国税担当者と中国税務当局者との共同執筆によるものである。わが国においては、従来中国の税制全般にわたって解説した類書は、いたって少ない。中国との交流が現在非常に増加しているにも拘らず、中国の税制がどのようになっているのか、その全体像を把握するに足る文献が少ないということは、中国に進出しようとする企業や、中国税制に関する研究者にとっては、本書がまさに待望の書物といっても過言ではあるまい。

 本書の内容は三部に分かれており、第一部は中国税制の概要として・中国税制の税体系を概観した後、・流通課税として、(イ)増値税、(ロ)消費税、(ハ)営業税、(ニ)関税等の各内容を、・所得課税として、(イ)企業所得税、(ロ)外商投資企業および外国企業所得税、(ハ)個人所得税を解説する。また・資源課税として、(イ)資源税、(ロ)土地使用税等の内容を、・資産および行為課税として、(イ)家屋税等、(ロ)車船使用税等、(ハ)印花税、(ニ)屠宰税、(ホ)宴席税、(ヘ)契税の内容を解説し、更に、・特定目的課税、・農業課税、・租税条約を解説している。

 第二部は中国の税務執行の概要として、・税務組織、・税務執行の内容を解説している。第三部は、これまでの中国における税制の変遷につき、中華人民共和国の創立以来の税制の創設(1950年)から、今日に至るまで(1994年)の税制改革の経緯を詳細に解説している。

 これらをみると、進出日本企業にとって税制上関係の深い増値税(消費税に類するもの)、外国投資企業に対する企業所得税、源泉所得課税、移転価格税制、租税条約等につき、深い考慮がなされている。

 特に注目されるのは、中国建国以来の税制の移り変わりを詳細に説明しており、これらをみることによって、税制変遷の経過とその背景を容易に知ることができる点であり、外国税制の比較法的研究の文献としても欠かせないものと思われる。更に、現在の中国の税務行政の組織の概要が図式され、税務手続きの内容も平易に解説されているので、本書により随所に日本の税制との相違点が容易に把握できるだけでなく、今後における日本の税制研究に当たっても一つの大きな資料を提供するものといえよう。そのうえ、中国税制における行政組織図や徴収制度の概要、税額計算の方式のみならず、税務違反者に対する取り扱い、不服申し立て、わが国の税理士に該当する「税務士」制度等甚だ興味深い内容の全体が紹介されており、題名に示すように、最新の中国を知るガイドブックとして、本書は、まさに好適である。

 本書は、中国税制の変遷につき、統一国家として数次にわたる税制の改革を紹介している。かかる情報・資料は、わが国において初めてのものとして極めて貴重であり、今後の、この方面の研究書としても学問に裨益すること大なるものと思料する。

 中国は隣国であり、21世紀に向かって今後ますます交易が盛んとなり緊密な関係を構築する必要があるとき、本書の役割は、その意味で大きいものとおもわれ、中国の税制を紹介するものとして資料的価値も高く、わが国の租税法学の文化を向上させ、中国との関係における租税実務にも著しく貢献すると思われる。