奥谷 健 稿 「市場所得説の生成と展開」

奥谷 健 稿
「市場所得説の生成と展開」

(民商法雑誌 122巻3・4~5号 平成12年6・8月刊)

 論者は、本稿において、税法における所得概念の再検討を意図しているものである。

 従来、所得概念については、制限的所得概念説(制限所得説)、又は包括的所得概念説(純資産増加説)が中心に研究され、現在では一般的には包括的所得概念説が有力である。論者は、現時のドイツ所得税法の解釈において、通説となっている「市場所得説」を日本においても研究すべきと提唱している。

 論者は、ドイツにおける市場所得説の発展、及び展開を詳細に紹介している。すなわち、市場所得説は、かっての通説であった包括的所得説に対する批判として、所得の範囲を経済活動からの所得であるとする見解から出発した。ドイツのルッペ、ラング等によれば、所得には主観的要素(営利目的)と客観的要素(市場での獲得)とが必要であり、自家消費、帰属収入、相続又は贈与によるもの、趣味からの収入、及び公益的かつ無給の活動等によるものは含まれない旨と主張した。さらにビットマンは、市場所得は、「社会的」価値形成過程である給付交換においてのみ発生し、活動、実現、主観的意思の3要素から構成されていると主張した。そして、ドイツにおける1990年所得税法改正は、所得を実際に把握可能な範囲に限定する「市場における有償の給付売上げ」という概念で全所得分類を共通させた、と紹介し、それらについても、ドイツにおける学説、判例等との関連で詳細な検討を行っている。

 最後に、日本においては、純資産増加説が通説となっているが、所得概念を経済学における概念をそのまま税法に持ち込んでくるのは根本的な欠陥があるものであり、法学的な概念として構成すべきとの立場から、純資産増加説や所得源泉説を批判している。そして、日本において、市場所得説が妥当であるかどうかを検討している。その結果として、市場所得説は、課税の明確性を担保し、租税法律主義の要請に応えることができるから、市場所得説に基づき、憲法と結び付いた所得概念を構成する必要性の高さは認められる、としている。

 今日、所得概念について検討が求められているところ、ドイツにおける市場所得説の紹介及び検討を詳細に行い、また、各学説をその発展の順序によって、それらの批判説をも含めて過不足なく紹介しており、大変有意義なものと評価できる。

論 文 1(PDF)・・・・・・460KB

論 文 2(PDF)・・・・・・436KB

(注) 奥谷氏が平成12年6月及び8月刊の民商法雑誌第122巻3号及び第4・5号に掲載した論文の原稿をPDFにしたものです。