竹下 進一 稿 「任意整理における租税徴収の諸問題」

竹下 進一 稿
「任意整理における租税徴収の諸問題」

(税務大学校論叢 第40号 平成14年6月刊)

 企業倒産の処理の多くは、法的整理(破産、民事再生、会社更生等)によらず、債権者と債務者との話し合いによって負債の整理を行う任意整理によって行われる。

 最近、多くなっている弁護士に委任する任意整理において、滞納租税の納付を考慮しない任意整理が開始されると、租税の徴収上、次のような問題が生ずる。

 倒産企業の資金が入金された弁護士預金口座について、それが倒産企業に帰属するのか、あるいは名義人である弁護士に帰属するのか。
 弁護士の預金口座に入金された倒産企業の資金はどのようにして追及するのか。
 任意整理の配当財源を確保するために弁護士に売掛金等が信託的に譲渡された場合、詐害行為として取消請求ができるか。

  本稿は、これらの問題を考察したものである。

 第一の帰属の問題については、判例と学説の検討を行い、原則は預金原資の実質関係からその出捐者が帰属会社であるとしつつも、預金開設の経緯、出捐者としての滞納会社の合理的意思等も併せて検討して判断することになるとしている。

 第二の追及については、預り金の返還請求権の差押えの可否、取立権による委任契約の解除の可否、委任契約の解除に伴う報酬債権と被差押債権との相殺の可否を取り上げている。このうち、弁護士に帰属されるとされる預金残高については、預り金の返還請求権を条件付の将来債権として差し押さえた上で、差押えの取立権によって任意整理委任契約を解除して、差し押さえた預り金の返還請求権を取り立てることができるとしている。

 第三に、売掛金等の信託的債権譲渡については弁護士に第二次納税義務を負わせることはできないと解されるので、詐害行為取消請求によって対応することになるが、配当財源を確保するための譲渡であっても詐害行為に該当するか、租税からの取消請求が権利の濫用となることはないかについて、判例を中心に考察し、さらに配当を受けた債権者の追及の可否を検討し、弁護士が債務者への弁済をした後において、税務署長が詐害行為の取消請求をしても権利の濫用になることはないとしている。

 近年、制度的な整備が進められている法的整備に対して任意整理は未だ解釈に委ねられる部分が多い。本稿は、任意整理を受任した弁護士名義の預り金口座の資金と滞納処分とに関連する諸問題を取り上げたものであるが、特殊領域の問題を深く掘り下げた力作である。任意整理を弁護士に委任した場合の租税徴収に関する問題点はほぼ完全にカバーされているといえよう。

 法律的に整然と分類して緻密に議論を展開しており、難解な問題点も着実に結びつけ、細部まで正確に読めば、おおむね理解できる親切な構成と論述となっている。また、それぞれの結論も明快かつ妥当であっておおかたの支持を得ることができよう。

論叢本文(税務大学校のホームページへリンク)(PDF)・・・・・・685KB