水野 忠恒 著 「租税法」

水野 忠恒 著
「租税法」

(株式会社 有斐閣 2003年4月刊)

 本書は、租税法の体系書であるが、極めて意欲的な内容のものである。従来の体系書は、手続法、救済法、処罰法などが各別の章や編として構成されて相当の構成割合を占めていたが、本書では、これらの部分は「第1編 租税法の体系と基本制度」として、約500ページの本書のうちの約100ページにまとめられ、残りは「第2編 所得課税」として所得税法と法人税法の実体規定についての著述に充てられている。従って、実体規定についても、相続税法や消費税法については述べられてはいない。

 これらの部分については、著書の分量の制約から、別の著述が期待されている。このように、本書は税法の体系書と言うものの、平板的に一般的な体系に従ってまとめられた著作ではない。それだけに、内容の水準は極めて高く、著述の内容も法律の条文の順に記述すると言ったものではなく、重要な論点を中心に、多面的な角度から掘り下げた論述を集めた総合専門書とでも言える内容である。

 手続法的な部分はコンパクトにまとめられていると言っても、新しい立場から重要な問題を要領よくまとめて論述されており、例えば、青色申告、加算税などの制度も適正課税のための資料収集制度の一環として説明されており、また、納税環境の整備について一節を起こすなど重要な論点に新しい観点から論及されている。

 実体法の部分では、まず、所得税については、最近の動向として支出税の検討や、基本的な金融所得課税の在り方からの二元的所得税の問題の検討がなされ、課税所得に関しても、フリンジベネフィット課税の在り方、ストックオプション課税の問題などの検討も加えられている。

 次に述べられる法人税の部分は本書の約半分を占め、最も重点が置かれている所であるが、しかし、例えば、類書ではそれなりのページを割く棚卸資産の評価などは極めて簡潔な記述に留められ、反面、例えば、類書では一般に簡単に述べられている法人税の納税義務者については新しい事業体についての問題や組合、信託等について詳細な検討が行われているし、特に、組織再編税制等、会社法制との交錯について、詳しい論述が行われている。

 以上のような内容で、大学学部レベルでの教科書としては問題があるとしても、大学院レベルでのテキストなどとして、ふさわしい充実した労作であり、租税法の体系書の在り方に新しい試みを行った意義ある書と評価できる。