藤巻 一男 稿 「我が国の移転価格税制における推定課税について」

藤巻 一男 稿
「我が国の移転価格税制における推定課税について」

(税務大学校論叢 第42号 2003年6月刊)

 我が国の移転価格税制(租税特別措置法第66条の4)では、その第 7 項において独立企業間価格を推定して課税することが出来ることが規定されており、また、第9項において同業他社に対する質問検査権が規定されているが、本稿は、これらの規定、特に、第7項に重点をおいて、その存在意義と解釈、適用を検討した論文である。

 まず、この規定の適用対象となる「帳簿書類等」については、第8項の規定との関連から、この帳簿書類等は、納税者である日本法人の保存するものに限定されるという解釈に対して、両項の規定の目的が違うことから、そのような解釈は採れないとし、また、第7項の推定規定を適用する場合、類似事業法人の批准取引は、非関連者間取引でなければならないという要件はない、との指摘をして、第
7 項の存在意義を論じている。

 さらに、一般的な推計課税については、その「必要性」があることが要件とされていることとの関連から、当局が直接資料の入手が出来ない場合に、初めて、第7項による推計課税が出来るとする見解に対して、独立企業間価格の計算構造の特殊性から、一概にそのように言うことは出来ず、より合理的と認められる方法であれば良い、と論じている。

 さらに、多国籍企業グループ内取引の増大、無形資産のウエイトの増大などによる独立企業間価格の推定計算の困難化のため、取引価格データだけでなく、「利益率」「原価率」などの財務データの活用などにより、出来るだけ合理的な価格推定をすることは許される、と論じている。

 また、第9項による同業他社に対する質問検査権の行使は、推計課税に必要な資料の入手のためにも適用されるが、機能の差異などの調整がなされなければならない、としている。

 以上のような推計課税の規定や立証責任に関する論究については、やや平板的なところもあるが、これまでの解釈論になかった克明な整理、検討が行われており、論文の構成、論理の展開も優れており、表彰に値する論文と認められる。

論叢本文(税務大学校のホームページへリンク)(PDF)・・・・・・661KB