図子 善信 著 「租税法律関係論」

図子 善信 著
「租税法律関係論」
 ―税法の構造―
(株式会社 成文堂 平成16年9月刊)

 本書は、税に関する法律関係を正確に理解するためには、税法を体系的に理解する必要があるとして、租税法律関係を理論化することを目的とする研究書である。

 その内容は、1総論として、税の法概念、課税権論、租税法律関係論(権力関係か、債務関係か)、租税債権債務関係、租税手続関係、2
各論として、税額確定の法律関係、源泉徴収制度の法律関係、税額控除の法律関係、免税の法律関係などの項目について検討している。

 まず、総論である第1章「税の法概念」において、「税」の概念、従来の定義を、田中二郎教授による「国又は地方公共団体が、その課税権に基づき、特別の給付に対する反対給付としてでなく、これらの団体の経費に充てるための財力調達の目的をもって、法律の定める課税要件に該当するすべての者に対し、一般的標準により、均等に賦課する金銭給付である。」等を紹介し、これらの定義は、ドイツの租税通則法の規定の影響を受けつつも、財政学における定義をベースに考えられたものであるといえようと推論している。その定義を特徴的な事項(「法律に基づき」、「資金を調達する目的」、「反対給付なく」、「金銭給付」)を中心として検討し、「税とは、国又は地方公共団体の課税権に基づき、法によって強制的に給付を義務づけられた財又は役務である。」と定義している。

 第2章「課税権論一課税の正当根拠-」において、まず、課税権を論ずる必要性(現実に行政庁の優越性を認識すべきなのに、それを無視すべきではなく、警戒すべきものがありながら、それを無視することは正当ではない。)を論じ、次に、利益説(対価説)又は義務説(犠牲説)があり、その実質的根拠は、財政権、課税権又は統治権、さらに、国家や、国家と統治権、国家と法規範、権力と権利、などを検討して課税権の本質を検討している。

 第3章「租税法律関係の性質一権力関係か債務関係か-」において、外国における学説(オット・マイヤー、アルバート・ヘンゼル等)や、日本の戦後における学説を紹介している。そこでは、ヘンゼルのいうごとく、権力関係は優位・服従関係であること、債権債務関係ということは、当事者の基本的に対等の地位ということを前提としていること、を正当であろうとしながら、一般権力関係における債権債務関係と結論している。

 第4章「租税債権債務関係一国と納税者の関係-」において、納税義務の意義、国税の徴収義務、租税債務の用語の回避、租税債権者、租税債務者、等について言及している。

 第5章「租税手続論一行政機関と納税者の関係-」において、租税債務者側の手続上の義務、税務行政庁の権限、税務行政庁と租税債務者の関係、税務行政と行政法、税法の執行と裁量、等の項目のもとに、詳細に、かつ、広範囲に検討している。第2編各論については省略する。

 以上、著者の研究方法は、内外の学説を戦前におけるものも含んで、詳細に、かつ、広範囲に検討している。それぞれの各項目を詳細に検討したゆえか、結論的なものが判り難い部分もあるが、全体として丁寧に、丹念に研究され、その結論において現代においても重要な意義あるいは注目すべき示唆も少なくない。

 また、基本的な租税論を扱う論者は少ない現在において、貴重な著作であるといえる。
 以上から、優秀な作品として、高く評価されるべきものである。