横田 雅志 稿 「税務行政の効率性について」

横田 雅志 稿
「税務行政の効率性について」

―経済社会の変化への柔軟な対応と効率的な事務運営の推進のために―
(未発表)

 行政改革の大きな流れの中にあって、税務行政もまた、スリム化と効率化を求められている。筆者は、税務行政の効率化を論ずる際には、義務の履行を強制する権力的な行政の側面(適正・公平な税務行政の促進)と納税者の義務の履行を促進するサービス行政の側面(納税環境の整備)との二つの視座から検討する必要があるとする。例えば、税務調査については、高額で悪質な不正計算が想定される納税者に重点をおくことはあっても、一般的に調査対象の選定に当たっては効率性を重視することがあってはならないとした上で、税務行政の効率化に向けてのこれまでの歩みと今後の考え得る施策を説明する。

 効率化のための諸方策としては、収受・収納事務や相談業務に外部委託を活用するべきこと、文書回答手続の規定を事務運用指針から国税通則法に格上げすべきこと、相談業務に関連するトラブルは訴訟による信義則の適用ではなく加算税の減免等によって解決されるべきこと、法律改正によりクレジットカードによる納付を可能にすべきこと、電子申告・納税に税理士の協力を求めること等を提言する。

 次に、適正・公平な税務行政の視点からは、まず、個人の所得課税について、源泉徴収制度のうち給与支給者の年末調整を廃止し、課税所得のある給与所得者はすべて申告することとし、申告者の増加に対応して税務署よりも地域に密着している市区町村に個人課税事務を国が委託することを検討すべきであるとする。

 また、徴収業務については、徴収の民間委託は、滞納処分手続は国民の権利義務に直接影響を及ばす公権力の行使であるから、委託を受ける者の適格性や手続の公正性が求められること、納税コールセンターの業務は、これまでの文書による催告と比べて完納に至る割合が4~5倍に上っていることや徴収職員を投入すべき事務を選別する効果を発揮しており、アウトソーシングにより一層の充実を図るべきことを提案している。

 次に、法人調査事務については、そのすべてを国税局(数箇所の調査分室を含む)で行うこととし、税務署には異議審査機能を残すべきことを提案する。

 そのほか、源泉所得税の納付指導に外部委託を検討すること、資料情報を国税総合管理システムに集積すべきこと、納税者番号制度を導入すべきこと等を提案している。

 上記の諸提案にはその考え方や実現の可能性について種々問題もあろうが、現状では、税務行政の実務面についての研究はいまだ数が少なく、新分野への挑戦として評価したい。また、現行の実務についての説明も適切であり、諸提案は現行の実務につなげて理解しやすくなっていることも評価できよう。

論 文(PDF)・・・・・・1.02MB