村岡 篤 稿 「ストックオプションにおける権利行使益の所得区分に関する考察」

村岡 篤 稿
「ストックオプションにおける権利行使益の所得区分に関する考察」

―外国親法人付与ストックオプション事件を題材にして―
(修士論文 熊本学園大学大学院院生)

 本論文の目的は、外国親法人付与ストックオプションにおける権利行使益の所得区分について、1)給与所得であるとした最高裁判決の妥当性、また、2)給与所得としない場合の取り扱いという2点を論じることにより、現行所得税法の所得区分が有する限界を浮き彫りにすることにある。

 本論文は、全4章から構成されている。まず、第1章では、ストックオプション制度の仕組みと現状が概説されている。本章の目的は、本論文の研究対象である外国親法人付与ストックオプションの判例研究に先立ち、その基礎概念を明らかにしておくことにある。具体的には、ストックオプションの意義、その導入の背景と経緯、及び、その課税の仕組みとして税法適格要件をとりあげ、権利付与時、行使時、譲渡時の各時点における課税の現状が検討されている。

 続いて、第2章では、ストックオプションにおける権利行使益の所得区分を考察するうえで、その前提となる「給与所得」と「一時所得」について、それぞれの意義が検討されている。特に、権利行使益に関する最高裁判決が「労務の対価」と観念できるとして「給与所得」と判示したことから、その妥当性を議論するための前提として、給与所得の中心的な要件である「労務の対価」の概念について論じている。

 次に、第3章では、外国親法人付与ストックオプションにおける権利行使益について、その所得区分をめぐる判例研究と学説研究が行われている。具体的には、一審(東京地裁)の見解である「一時所得該当性」と二審(東京高裁)・最高裁の見解である「給与所得該当性」の相違、及び、権利行使益に対する学説上の諸見解を解説することによって、ストックオプションの権利行使益に、多重の所得該当性が存在することが浮き彫りにされている。

 最後に、第4章では、最高裁判決、また、学説上の給与所得該当説等を踏まえ、権利行使益の所得区分の問題点が論じられている。特に、ストックオプションの権利行使益を給与所得に該当するとした最高裁判決の問題点として、法人税の寄付金課税との整合性の崩壊、旺文社事件の最高裁判決の判例理論との相違、税法上の連結の概念の変化を論じることによって、当該最高裁判決が妥当性に欠けるものであったことを論証するとともに、現行所得税法の所得区分が有する限界を論じている。

 本論文の研究対象であるストックオプションにおける権利行使益の所得区分の問題は、判例や学説上の対立がみられることから、難解な研究課題の1つとされているが、本論文はその解明に取り組んだ意欲作として評価できる。また、本論文では、最高裁判決の妥当性について、真摯な判例研究と学説研究を踏まえた自説が展開されており、独創的な論文としても評価できる。

論 文(PDF)・・・・・・2.78MB