服部 久男 稿 「更正の請求制度の問題点」

服部 久男 稿
「更正の請求制度の問題点」

 -更正の請求の期限延長の必要性を中心として-
(修士論文 専修大学大学院 院生)

 本論文は、現行の更正の請求の期間制限が法定申告期限から原則1年であるが、税務署長の職権による減額更正の期間制限が5年であることに対比し、更正の請求の期限延長の必要性を論じるものである。本論文の構成は、次のようになっている。

 第1章では、「更正の請求制度の概要」と題して、わが国の更正の請求制度について、沿革並びに国税通則法23条に規定する通常の更正の請求の手続きと後発的事由に基づく特例及び個別税法に規定する更正の請求の特例を検討している。その中でも、最高裁平成17年2月1日判決(いわゆる石山事件)に端を発して立法化された国税通則法施行令6条1項5号の制定経緯等が詳述されている。また、これらの論述においては、数多くの判例、学説の紹介と検討が行われている。

 第2章では、「更正の請求期間経過後の租税救済」と題して、租税法律主義の下では、課税庁の行う課税・徴収処分が違法に行われた場合には納税者の争訟手続きが保障されなければならないが、その法律関係の秩序を維持する一環として、租税法における更正の意義を明らかにし、更正の請求の期限1年と税務署長の職権減額更正の期間制限5年という求離の中で行われている納税者の減額更正を求める嘆願という法的性格とその問題点を検討している。また、最近の裁判例(前橋地裁平成14年6月12日判決、東京高裁平成15年2月27日判決において、法定申告期限後5年以内に嘆願書を提出しなかった税理士に対して、損害賠償責任があるとされたが、当該事件を中心に問題点を検討している。更に、更正の請求の制度について、民法に定める錯誤による取消し、憲法16条に定める請願、行政手続法及び行政事件訴訟法との関係についても論及している。

 第3章では、「更正の請求期間延長の必要性」と題して、以上の論述を前提に、現行の更正の請求期限を延長すべきとする見解を集約し、延長した場合に予想される諸問題を検討している。この場合、課税する側との対等性を実現し、税務行政の公正化を図るために、減額更正の期間制限(5年)と統一する必要があるとし、更正の請求期限についても5年に延長すべきことを提言している。

 以上のように、本論文は、更正の請求制度に関する諸問題について、学説、判例、関係条項の沿革と改正の背景等を具に検討し、更正の請求の期限(原則1年)を税務署長による減額更正の期間制限(原則5年)に合わせて5年に延長すべきことを提言するものである。この問題は、実務上常に提起されることであり、日税連・税制審議会でも取り上げられたもので、時機を得ている。また、その提言は、関係裁判例と学説に根拠付けられたものであって、多くの実務家を納得させるものであるから、高く評価できる。