加藤 知子 稿 「同族会社の行為計算の否認に対する    対応的調整規定の法的権能について」

加藤 知子 稿
「同族会社の行為計算の否認に対する
   対応的調整規定の法的権能について」

(札幌学院大学大学院 院生)

 本論文の目的は、法人税法132条等の同族会社の行為計算否認規定の準用について、当該否認規定の発動により、私法上容認される取引と税法上の認定にかかる乖離が、いかなる課税上の問題を提起するかについて考察し、対応的調整規定の創設により、経済的二重課税が排除できる法的権能が存在しているか否かを検討することにある。

 本論文は全4章から構成されている。まず、第1章では、本論文の前提として、平成18年度税制改正前における行為計算否認規定の運用実態を解析している。具体的には、二重課税排除に係る判例等の論旨、つまり、租税回避行為否認の過去における執行状況等から、特殊関係者間取引に対する課税論理の認識が解析されている。次に、第2章では、現行の対応的調整規定の法的権能が検討されている。具体的には、現行法の文理上の問題点、納税者の減額更正への手続に対する課税庁の権能が検討され、現行の対応的調整規定が、文理上も手続的制約性からも、二重課税排除の実現を担保するには不完全な状態であるとしている。それを受けて、第3章では、法条文の不完全さを補完するためのアプローチを検討している。具体的には、法条文の不完全さの補充行為として、原処分により課税庁が認定した擬制取引を適正行為と仮定し、納税者も適正行為として処分を受け入れたうえで、私法取引の変更を行い、損益の連動性を回復することによる二重課税排除論を展開している。本論文では、この双方からの法の補充行為を伴って租税回避に対する是正を行うことが、恣意的取引を行わなかった者との行為の公平性を保ち、本来納付すべき税負担を完遂し、現実的な公平性を叶わせる手段となりえるとしている。最後に、第4章では、現行法上、対応的調整規定の権能は、課税庁に委ねられていることから、納税者と課税庁との権利の非対称性の問題を論じている。双方の権利の均衡を図るためには、課税庁は、納税者に対し「適正計算」に必要な是正行為を「提示」し、納税者がそれに呼応して法行為の変更を図るとする二階層の審理段階を設ける必要があるとしている。かくて、租税回避行為の否認規定の発動は、法の欠?に基因するものであることから、対応的調整規定の法的権能は、課税庁と納税者の双方からの法の補充行為によることが当該規定を適切に機能させるために必要であると結論づけている。

 本論文は、平成18年度税制改正における行為計算否認規定の準用について、その法的権能を理論的かつ実務的に検討し、先行研究のない状況にもかかわらず積極的な判断を展開した努力作として評価できる。また、本論文の構成は論理的であり、論旨の展開にあたっても、具体的事例を考察しながら展開されていることから、その結論も説得的なものとなっており、租税資料館奨励賞に該当する優れた論文として評価できる。

論 文(PDF)・・・・・・887KB