浅野 あずさ 稿 「消費税の転嫁に関する一考察」

浅野 あずさ 稿
「消費税の転嫁に関する一考察」

 ―税制改革法11条に立ち返って―
(国士舘大学大学院 院生)

 本論文の目的は、消費税の転嫁が不透明であり、転嫁について適正な施策が講じられていないのではないかとの筆者の問題意識のもとに、その原因を消費税の課税制度・課税構造の側面、消費税導入の理由・経緯・社会的背景の側面からその原因を浮き彫りにし、その解決策を提案することにある。

 筆者は、まず、わが国の現行消費税法が税の転嫁を不透明にしている原因について、消費税の課税制度・課税構造の側面から分析し、免税事業者の介在、非課税取引にかかる課税仕入れの問題、簡易課税制度、インボイス制度の非導入をその理由として挙げる。

 消費税導入の沿革の側面からは、社会的諸事情により消費税導入を急いだことが、小規模事業者に対する優遇措置につながったと分析している。

 次に、裁判例を分析することによって、いわゆる「預り金的性格」というあいまいな位置づけのままに、実際は消費税が「価格の一部」として処理され、消費税が適正に転嫁できるシステムが存在していないことの問題点を指摘している。

 以上を踏まえた立法的な解決策として、(1)日本型インボイス方式の採用と(2)健康保険法等や介護保険法等の規定に基づくサービス、お産費用および教育に関する役務の提供を課税対象とした上で、消費税を免除する(これにより、課税仕入れが可能となる)ことの2点を提案している。

 消費税に関する研究は多いが、本論文は、それを消費税の転嫁という立法上の矛盾や不整合を孕んだ困難な問題に対して、多くの文献や裁判例の考察を通じて、果敢に挑戦した意欲作として評価できる。論点も分かりやすく整理され、筆者の意見もしっかり述べられている。インボイス方式の採用については、従来からの意見と異なるところはないと言えるが、現行の非課税項目のうち医療費等を非課税ではなく免税にするという提案は、非課税事業に対する消費税の転嫁の問題の解決策としてユニークな提案と言える。

論 文(PDF)・・・・・・857KB