大淵 博義 著 「法人税法解釈の検証と実践的展開」
本書は、最近の訴訟事件を題材にして、法人税法における主要な問題点に焦点をあて、その解釈のあり方を論じたものであり、その内容は著者の豊富な実務経験と幅広い知識が結集された労作である。 本書は全体で11章から構成されている。第1章から第3章までは、いわば総論部分にあたり、著者の問題提起として、現在の課税実務及びこれを支持した判例理論が、多くの税法解釈上の矛盾及び不整合性を露呈し始めているとしている。また、著者によれば、課税庁が私法上の法形式を否認することは許される法理は、(1)「課税要件事実の認定における実質課税の原則」(事実認定の実質主義)、(2)仮装行為の否認、(3)租税回避行為否認の法理(同族会社の行為計算の否認)の適用のいずれかであるとして、それぞれの法理の適用要件、即ち、適用の限界を明らかにしている。つまり、この法理の適用については、(2)の場合はともかく、(1)の場合であれば、選択した法形式の下で発生している経済的意義(成果)が、その外形上の法形式と齟齬をきたしている場合で、かつ発生している経済的意義(成果)から他に真の合理的意思による法形式が認定できることが、そしてまた(3)の場合であれば、採用された法形式が異常、不合理な行為形式であって、しかもその法形式の経済的意義(成果)が通常採用される法形式のそれと同様であることが、租税の減免という事実に加えて必要となるとしている。その上で著者は課税庁が(1)の事実認定の実質主義を適用した裁判例を取り上げ、特に課税庁の主張が認められなかった事例の多くが、上記の適用の限界を踏み越えたものであることを個々の事例に即して説明する。 第4章以降は、法人税法解釈問題の各論が、検討の俎上に上げられる。ここでは、まず最近の著名な訴訟事案を例にとり、課税庁による更正処分等とそれを支持した裁判所の判断に対し様々な角度から鋭い批判が加えられている。また、税法解釈の局面においても、例えば少額減価償却資産の判定において、課税庁が事業的機能性という要素を取り入れていることについて、それが従前の課税実務において用いられていた判断基準と乖離しており、納税者の予測可能性に反したものであるとしている。なお、著者は税制改正の内容にも論及しており、平成18年度税制改正における役員給与制度の改正内容の中で、三つの特掲する役員給与以外の給与は、全額損金不算入とした条文につき、税法固有の合理的理由(法益)を認めることができないとしている。 その他の各論の部分でも、事実認定においては私法秩序を尊重すること、法令解釈においては文理解釈に忠実であること、さらには総論部分において整理された租税回避否認のルールの限界を認識することの重要性が繰り返し主張されている。 本書において著者は憲法上の租税法律主義の遵守を基本的な立場としており、これを逸脱したと著者が考える課税庁及び裁判所の判断を厳しく戒めるという姿勢が全編を通じて貫かれている。その意味で、著者の論述は一貫性があり、大変、明快で、わかりやすい。また、著者は、問題の考察に当たっては、従前の課税実務の取り扱い、あるいは裁判例等を、いわば網羅的に検証しており、そのことが著者の論旨展開に厚みを与えていると言い得る。しかも、こうした検証結果を、批判の根拠として列挙していく手法は著者の主張を非常に説得力のあるものとしている。本書は出版後日が浅いにもかかわらず、多くの論文において多く引用されており、高い評価を受けていることが顕著であることをうかがわせるものである。 |