関根 美男 稿 「法人税の課税根拠と多様化する事業形態に対する課税ルール」

関根 美男 稿
「法人税の課税根拠と多様化する事業形態に対する課税ルール」

 本論文の目的は、多様化する事業体に対する課税がいかにあるべきかを検討するところにとされる。すなわち、会社法や信託法等の改正により、事業形態が株式会社、合資会社、合名会社、民法組合、匿名組合といった形態から、SPC、J-REIT、LPS、LLP、LLC、新しい信託類型と新たな多様な事業形態を誕生したが、この多様な事業体に対する課税がどうあるべきか、従来の法人格を基準にした法人課税がこのような事業形態の多様化に対応できるか否かが本論文の問題意識として存在する。

 本論文の構成は、まず、第1に法人税の課税根拠について、日本の法人税の変遷を述べ、法人税と所得税の負担調整方式を整理し、次に、人格のない社団等、匿名組合、民法組合、LLP、LLC、SPC、信託といった事業体ごとにその課税ルールが何かについて整理している。そのうえで、比較法の観点から米国が30年以上支配してきた団体性の判断基準であるキントナー規則を放棄して、1997年からチェック・ザ・ボックス規則を施行した経緯を分析している。この米国との比較を経て、米国のパートナーシップ課税と比較して、日本の構成員課税制度が如何にも未整備であることを指摘している。

 これらの分析を通じて、事業体の法形式の選択によって、事業体自体及び事業利益の分配を受ける者の租税負担が大きく変わるのは、租税公平の観点から望ましいものではないとの通説的見解に疑問を提起し、有限責任か無限責任かで損失規制の有無を公平に扱い、法人格の有無で法人課税か構成員課税かを公平に扱うことに留意すれば、公平、簡素、中立の租税の原則に適合するとの結論を導き出している。我が国の企業の国際的競争力を維持することを目的とした多様な事業形態を想定した法人税課税の在り方がいかにあるべきかを、法人税の課税根拠論から説き起こし検証したのが本論文の評価すべき点である。

 著者は、「有限責任か無限責任かで損失規制の有無を公平に扱い、法人格の有無で法人課税か構成員課税かを公平に扱うことに留意すれば、納税者が多様な事業体を選択できるよう租税がその邪魔にならないように留意することが、結果として、公平、簡素、中立の租税の原則に適合する」との結論を導き出している。租税が企業活動や企業間の公正な競争に中立的であることはまさに租税原則の中核の一つであるから、著者の結論は租税原則の視点からも支持できるものである。

 なお、事業体ごとに課税ルールの整理を試みているが、その課税ルールが必ずしも明らかではなく課税の概要を説明するにとどまっている点は今後の研究課題としてなおも残されている。

 とはいえ法人課税の現代における基本問題を租税原則の視点から検討し、著者なりの解決の方途を提示している本論文は受賞に値するものとして高く評価されるものである。

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