越後 浩二 稿「相続税・贈与税における財産評価に関する一考察 ―財産評価基本通達総則第6項の適用の在り方を中心に―」
相続税法において課税対象となる財産の評価については、財産評価基本通達に依拠しているのが実情である。しかし、当該基本通達総則第6項では、「特別の事情」がある場合には、個別的・例外的な評価方法を認めている。本論文は、この「特別の事情」を問題として取り上げ、現実の裁判例等を題材として、当該基本通達総則第6項の適用の在り方について検討したものである。 第1章では、わが国の相続税・贈与税の概要と相続税における「時価」評価の意義が概説されている。すなわち、(1)相続税・贈与税が財産に対して課される租税であること、(2)相続税法では財産の「時価」(客観的交換価値)が課税標準とされること、などが明らかにされている。続いて、第2章では、財産評価基本通達の特質を分析し、その問題点を浮き彫りしている。すなわち、財産評価基本通達が相続税法22条の「時価」評価の解釈通達であると位置づけ、当該基本通達による評価が著しく不適当である場合に、個別評価を認める当該総則第6項について、その問題点を指摘している。第3章では、当該総則第6項が適用された裁判例とその判決を題材として、当該総則第6項の適用基準および適用方法の妥当性が分析され、「特別の事情」の問題が具体的に議論されている。最後に、「おわりに」では、本論文の結論として、財産評価基本通達総則第6項の適用が認められる「特別の事情」について、(1)その判断に際して、納税者の主観的な租税負担軽減目的を考慮することに批判的な見解を示し、(2)基本通達総則第6項を適用する場合、納税者の求めがあれば課税庁はその指示内容を公開すべきであることを主張している。 本論文は、相続税・贈与税における財産評価について、財産評価基本通達総則第6項に焦点をあて、現実の裁判例等を題材として、その適用の妥当性を検討したものであり、「特別の事情」についての判断基準に一定の批判を加えながら、その適用の在り方を論じた努力作である。本論文は、明確な問題意識のもとで、明快な論旨が展開されており、裁判例等の分析も踏まえた手堅い論文構成となっている。しかし、第1章と第2章の解説はやや教科書的であり、引用文献・参考文献もかなり限られており、文献的渉猟の乏しさにやや不満が残る。しかし、如上の評価すべき諸点から判断して、修士論文としては完成度の高い作品であると評価できる。 論 文(PDF)・・・・・・488KB |