大野 利郎 稿 「租税法規不遡及の原則 ―期間税の予測可能性と損益通算制限立法の検証―」
本論文は、租税法規不遡及の原則をめぐる問題を、土地・建物等の譲渡損失の損益通算の禁止(平成16年度税制改正)立法の合憲性を争点とした福岡地裁平成20年1月29日判決を素材に検討したものである。 著者の問題意識は、租税法の基本原則である「租税法律主義」の機能である予測可能性と法的安定性の確保は、租税法の遡及立法により侵害されるから、租税法規不遡及の原則は租税法律主義の実効性の担保に不可欠であるにもかかわらず、その不遡及原則に抵触する法改正がなされたことは大きな問題であるとする、ところにある。 さらに著者は、たとえ所得税が期間税であるとの理由づけをしようとも16年改正は納税者の予測可能性を侵害するものであり、不動産の譲渡所得の遡及立法による不利益は到底無視することができない、と主張する。 著者の主張のエッセンスは、以下に集約されよう。 本論文における著者の論旨は明快であり、関連文献も積極的に渉猟しており租税法の基本にかかわる問題を正面から論じており評価できる。同一争点の他の裁判例の判断を簡潔に整理し、その上で比較検討も行われており真摯に研究に取り組まれており高くその研究姿勢は評価されるべきであり、受賞に値する研究といえよう。 論 文(PDF)・・・・・・667KB |