清野 修 稿 「相続税における時価と納税に関する一考察 ―土地と上場株式を中心として―」
近年の我が国の不動産市場、株式市場の変化により、相続における財産評価の時期から申告期限にかけての価格の下落により納税者の税引き後の純資産が大きく減少するケースを想定し、現実的な解決策や立法的な施策について研究を行ったものである。 第1章において、相続税法第22条の「財産の取得の時期における「時価」についての解釈と、財産評価基本通達の意義や問題点を検証している。第2章において、財産評価基本通達による評価額と相続税法上の「時価」の乖離が拡大し、納税者、課税庁それぞれの立場から、財産評価基本通達総則6項(この通達の定めにより難い場合の評価)の適用が主張されているが、課税強化の場合には、立法プロセスを経るべきであるとの結論に至っている。また、立法にあたっては市場価格が上昇した場合と下降した場合の制度設計を行うべきであると指摘している。第3章では、上場株式の評価と納税に関する問題点と裁判例の検証を行い、評価通達が課税時期の最終価格又は課税時期の属する月以前3ケ月の毎月の最終価格のうち最も低い価額によることとしていること、特に課税時期の実勢価格と相続税評価額が乖離して不合理が起きた場合は、財産評価通達によらず、相続税法22条の解釈によるとしている。第4章では、米国連邦遺産税における制度から「ブロッケージ・ルール」と呼ばれる大口上場株式のコスト評価制度と、相続開始以降の資産価格の下落による負担軽減ができる「評価期日選択制度」の検証などを行なっている。 土地や株式価格が下落傾向になっているわが国において、多くの示唆を与えると思われるが、これらの「ブロッケージ・ルール」や「評価期日選択制度」等の制度の導入に伴う諸課題を将来の研究に残している点に若干の不満を覚える。しかし、相続税の最大の課題である評価をめぐる問題を包括的に研究していることは、多いに評価すべきところである。 論 文(PDF)・・・・・・1.36MB |