田中 友紀 稿 「米国LLCに係る我が国税務上の取扱いに関する考察」
本論文は、米国LLC(Limited Liability Company)に係る税務上の取扱いが日米で異なることから生ずる問題にいかに対処すべきかについて論じたものである。米国LLCは、構成員が有限責任であるという法人的性格を有しながらも、課税上は法人課税かパートナーシップ課税かを選択できるという特徴をもつ。一方、我が国における税務上の取扱いについては、国税庁質疑応答事例において、米国LLCは私法上の法人格を有する事業体であるため、法人として取り扱われるという見解が示されている。 このため、米国でパートナーシップ課税を選択しているLLCについては、日米で税務上の取扱いが異なることから、これを利用した租税回避が発生する可能性があり、また、国家間で税務上の取扱いが一致していることを前提としている外国税額控除やタックスヘイブン対策税制の適用にも問題が生じる。 こうした問題を解消するために、国税庁質疑応答事例において米国LLCが法人とされた根拠について、第4章において詳細に検討し、国税庁質疑応答事例が掲げる法人格を構成する要素が法人固有の性質ではなく、パス・スルー課税される事業体にも共通する性質であり、法人か否かを判断する基準としては妥当ではないとしている。 第5章では、各国の外国事業体の取扱いを整理したうえで、設立国の税務上の取扱いを準用する方法が最も適していると結論づけている。ただし、この方法による場合には租税回避が問題となるため、これを防止する対応策として、米国LLCに係る損益等と他の所得を切り離して計算を行い、米国LLCに係る部分については利益が出た場合のみ他の所得と合算するという方法を提案している。 以上のように、本論文は、米国LLCに係る我が国における現行の税務上の取扱いの問題点を明らかにし、いかに対応すべきかについて丹念に論じたものである。豊富な文献渉猟に基づき手堅くまとめられた修士論文であり、租税資料館奨励賞に相応しい作品と評価することができよう。 論 文(PDF)・・・・・・670KB |