成田 武司 稿 「相続税法における信託課税規定の射程の検討」
信託法改正に伴い、平成19年度税制改正で信託課税についても改正が行われた、租税回避防止規定も新設された。本論文は改正後の租税回避行為防止規定の新設に対する批判的解釈論を提示している。具体的には、信託法改正前の相続税法が、信託の受益者に対し裁量信託の信託設定時課税方式を中心に、租税回避防止の趣旨が強く現れ過ぎており、問題であったことを指摘している。そして、様々な論者の見解を概観した後、信託による租税回避行為の否認は個別否認規定に基づくものであるべきと主張している。さらに、本論文は、相続税法9条の2および同法9条の3に規定される「適正な対価」の概念は、適正性と対価性を有しているか否かにより判断することが可能であり、租税回避行為の意図の存否は問われるべきではないと主張する。信託の利便性向上のために、さらに広い視野に立って議論が行われるべきとしている。 本論文においては、様々な論者の見解を広くサーベイした上で、信託課税のあり方について論じている。サーベイの内容については、多くの論者の見解を網羅しつつ、議論をよく整理しており、高く評価できる。 ただし、本論文の結論については、本論文が強調する信託の利便性向上との観点とは必ずしも整合的ではないように思われる。すなわち、信託が租税回避に用いられることが多いため、租税回避行為の防止のための規定が必要なことには異論のないところであるが、租税回避行為での信託の活用例は事前にその具体的なスキームを想定できないものも少なくなく、事前に個別否認規定において明示的にそうした行為を定義することには限界がある。 しかし、全体としてみれば、その前提となる様々な見解のサーベイの内容は十分評価できるものであり、また、信託受益権と実物相続の経済的な受益状況に違いがもたらす租税負担のあるべき差別化の指摘など、事例に言及して詳細な論証を行っており、論文全体として高い評価を与えられると考える。 論 文(PDF)・・・・・・501KB |