根本 昌幸 稿 「後発的事由による更正の請求についての考察 ―後発的事由の該当性及び減額更正年度を中心として―」
本論文は、後発的事由(申告後に発生した事実に基づき過年度の申告内容を是正しなければならないような事由)による更正の請求につき考察を行っている。関連する裁判例や様々な論者の見解を概観しつつ、裁判例において後発的事由の拡大解釈・類推適用に関しては極めて否定的であることを批判し、さらに減額更正年度につき過年度の遡及修正が否定され、納税者に不利益が生じうることを指摘している。そうした認識から、本論文は、納税者保護のため、重大な過失がない場合、要素の錯誤が存在する場合および後発的事由に類する事由がある場合に更正請求を認めるべきと提案している。また、納税者が特別損益に計上した臨時損失のみに適用および売買契約等の年度から5年以内に適用との条件を付した上で、過年度の遡及修正も認めるべきと主張している。 本論文は、後発的事由に係る様々な論者の見解や裁判例・裁決例を広くサーベイしつつ、議論を展開しており、その点については高く評価できる。また、筆者なりの解決策を提示している点も評価できる。 なお、錯誤無効に基づく更正請求につき、筆者は契約の解除・取消しとの整合性の観点から一定の場合には認めてもよいのではないかと主張する。申告納税制度が納税者による適正な申告を前提としている以上、納税者には十分な注意を払いつつ、申告を行う義務があるとする見解も有力であることも考慮にいれるべきであろう。 全体的にみれば、更正の請求制度自体が納税者の権利救済制度であるとの趣旨から、現状の租税行政と課税の安定性を優先する判例の傾向を批判的に紹介し、この更正の請求制度が機能不全に陥っているという問題点を指摘しており、筆者なりの解決案を提示している点等は評価でき、受賞にふさわしいと考える。 論 文(PDF)・・・・・・616KB |