坂井 玲央奈 稿「一般社団法人・一般財団法人を利用した相続税・贈与税の租税回避」
筆者は、平成20年の公益法人税制の改正が、新たな一般社団法人や一般財団法人を利用した相続税・贈与税の租税回避を拡大するのではないかという懸念を抱く。たとえば、個人の所有する財産を一般社団・財団法人に移転し、親族間での理事の交代という手法を用いて財産の承継を行うことを想定し、その対応策を模索する。具体的には筆者は、ドイツの制度を参考にしながら、「家産世襲的な社団や財団」への対応を中心に、一般社団・財団法人を利用した租税回避行為に対する防止措置を考えようとする。 論文の内容を紹介すると、まず第1章では、現行公益法人制度の概要を示した後、法人を利用した相続税・贈与税の回避を防止する法令上の措置として、相続税法64条、65条、66条、租税特別措置法40条、70条等を取り上げ、それぞれの適用要件と相互の関係、さらにはあるいは個人から公益法人に対する贈与における課税関係を検討する。第2章では、裁判例を中心に租税回避規定(相続税法64条1項、66条4項等)の適用要件と適用範囲を考察する。第3章では、種々の具体的事例を想定し、それらの事例では相続税法66条4項の適用を実際上免れうる可能性があることを指摘する。第4章では、第3章の考察を踏まえて、先行研究やドイツの制度などを参考にしながら租税回避への対応策を考え、提示しようとする。具体的には、筆者は、「家産世襲的な一般社団・財団法人」については一定期間(30年)ごとに相続税を課税することを提案すると共に、どのような法人がそれに該当するのか(判定基準)、(もし新制度が発足し)30年目の課税を免れるため新しい一般社団法人・一般財団法人その他の組織に財産の移転がなされた場合にはどういう対応策を講ずべきか等の検討を行っている。 本論文では、従来の租税回避論では必ずしも意識されてこなかった「公益法人形態を利用した租税回避」という独自の観点とテーマの下で本論文は作成されている。筆者の抱く懸念がどこまで現実性を帯びるのかについては、なお検討の余地があるとしても、着眼点の良さや、それぞれの問題に応じて具体的方策を示そうとする真摯かつ積極的な姿勢など、特筆すべき点が多く見られる。その内容や構成面から見ても、十分評価に値する好個の作品となっている。 論 文(PDF)・・・・・・1.17MB |