倉橋秀典 稿「無利息融資課税―貸手における所得計上の法理―」

倉橋秀典 稿
「無利息融資課税―貸手における所得計上の法理―」

(早稲田大学大学院院生)

 本論文は、無利息融資について寄附金等の認定との関係で融資を行った法人に法人税法22条2項にいう収益の発生が認識されるかどうかについて、日本の法規定の検討、ならびに諸外国とりわけアメリカとドイツの関連規定との比較検討を通じて独自の見解を提示した研究である。この問題については、有償取引同視説、あるいは、二段解説に基づいて、有償取引と対価の贈与という二段階の取引を擬制することによって、収益の発生を理由づけるという説明法が一般に採られてきた。かかる解釈論の基底には、有利息融資を行った場合との課税の公平の維持にあると言われている。しかしながら、果たして貸し主に課税の対象とすべき真の所得が発生していると言えるのかについては、これまで明確な分析が行われておらず、また、無利息融資による利息相当額の相手方への移転の時期についてはほとんど議論がなされていないことに着目して、本研究が展開されているところに特色がある。

 本論文は、第1章の日本法の検討において無利息融資課税の解釈理論、寄附金課税の機能、清水惣事件を中心として展開された無利息融資課税の解釈論争について検討している。第2章のアメリカ法の検討では、米国法におけるIRC7872条とIRC482条の適用による無利息融資課税について取り上げ、無利息融資の個別的課税規定の機能と実務上の評価について検討している。第3章のドイツ法の検討では、日本と同様に、無利息融資課税を所得算定の一般法理によって実行しているドイツ法を取り上げ、日本の解釈論争と比較して、ドイツの擬制論争を検討している。最後に、第4章の日本における無利息融資課税のあり方についての考察においては、所得算定の一般規定である22条2項を法人税の課税ベースを画定する純然たる課税要件規定と捉えた上で、その所得概念の包括性に着目して現実に発生している実体的利益を捕捉することにより、非正常取引に対する課税を考えていく立場を遵守するために、無利息融資課税において現在価値アプローチを採用することを提言している。

 本論文は、上記の検討を通じて、アメリカやドイツにおける無利息融資課税の法理から学ぶべきことは、アメリカのような個別規定を設けることよりも、所得算定の一般法理の下で課税を如何にして理論づけるかに政策的課題があるとしている。すなわち、所得算定の一般規定である22条2項の下で、無利息融資課税の法理を形成していくことが望ましいと結論づけている。このように、本研究は、内外における関連する先行研究を丹念に渉猟し、相当の論理的検討に基づいて提題に関する独自の結論を導いている点を高く評価できるものである。

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