山本 尚紀 稿「わが国の租税法における外国事業体の法人該当性 ―米国デラウェア州LPSを素材として―」

山本 尚紀 稿「わが国の租税法における外国事業体の法人該当性 ―米国デラウェア州LPSを素材として―」

(大阪経済大学大学院 院生)

 本論文の目的は,日本租税法律における外国事業体の法人該当性についての理論的枠組みを示すことである。本論文の構成は以下の通りである。

 第1章では,アメリカの法人該当性にかかる判断基準を取り上げ,キントナールールとチェック・ザ・ボックス基準を紹介する。第2章では,日本の借用概念論の立場から,法人該当性の判断にあたっては外国私法からの借用を認めるべきであるとしている。第3章では,日本とアメリカの事業体課税制度を紹介する。第4章では,デラウェア州LPSが日本の法人税法上法人に該当するかどうかが争われた3つの事件を取り上げ,外国事業体の日本の法人該当性は,基本的には設立準拠法である外国私法による形式的な判断によるべきであるが,その外国事業体の実態についての実質的な判断も併せて行うべきであると主張している。第5章では,大阪地判平成22年12月17日税資260号順号111575の事件を基にデラウェア州LPSの日本における「人格のない社団等」概念への該当性を検討している。第6章では,外国事業体の日本法における法人該当性の基準として,事業体が損益の帰属すべき主体として設立されたどうか,あるいは,損益を構成員に直接帰属させることを意図して設立したかという当事者の意思が重要であるとしている。

 外国の事業体が日本の法人に該当するか否かという問題については,近時いくつかの裁判例で取り扱われ,直近では平成27年7月17日に最高裁判所判決平成25年(行ヒ)第166号が下された。本論文は,平成27年最高裁判決以前の法状態の下で,外国事業体に対する日本の課税方法が不明確であることから納税者が想定外の課税リスクを負う可能性があるということを前提に,大胆な私見を展開した論文として評価される。ただし,全体の構成を見る限り,各章間の有機的な関連性への配慮が多少欠ける点も見受けられる。特に,アメリカの制度紹介が第1章と第3章に分割して紹介されているほか,そもそも第1章のアメリカにおける事業体に対する法人課税の制度紹介部分が,その後の日本の判例や私見にどのように関連づけられるのかが必ずしも明確ではない点は指摘しておかなければならないであろう。筆者の見解と必ずしも一致しない平成27年最高裁判決をどのように評価するかを含めて,筆者の今後の研究を期待したい。

論 文(PDF)・・・・・・668KB