中澤克佳、宮下量久 著『「平成の大合併」の政治経済学』
本書は平成の大合併の効果に係る一連の実証分析である。平成の大合併において我が国の市町村は当時の3300から半減した。その背景にあるのは第1次分権改革において市町村を基礎自治体として分権化の「受け皿」にするという国の方針であり、その推進力は合併特例債・交付税の特別措置といった「アメ」であり、さもなければ交付税額の抑制という「ムチ」だった。 第1部におて平成の大合併の概要と先行研究の概観を行った上で、第2部では合併に向けた合意形成(合併協議会の設置)の動き、第3部では合併特例債の発行を含めて合併が市町村の財政規律に及ぼした影響について検証している。 本書のタイトルに「政治経済学」と冠されている通り、その主眼は合併を進める国及びそれを受けた市町村の動きにある。とはいえ、単なる制度の記述や事例の列挙に留まらない。データ=証拠に基づいた高度な計量分析・政策評価が特徴である。国からの「アメとムチ」に対して自治体はどのように応じたのか、合併を進める上での障害(地域間格差)の存在を明らかにしている。 また、平成の大合併は自治体の財政基盤の強化を掲げたにも関わらず、過疎地域を抱えた合併自治体等で国への依存が続いたこと、合併に際して、交付税措置の手厚い特例債を発行する傾向が顕著だったことが示されている。 こうした合併への優遇措置には期限がある。期限が過ぎた合併自治体の多くが現在、財政的困難に直面していること、合併自治体内での所得格差が顕著な自治体も多いことを勘案すれば、平成の大合併とは何だったのか改めて考えさせられる良書である。 このように地方財政の実証分析の観点からは優れているが、他方、地方税制を直接扱っているわけではないことに留意は必要である。無論、地方交付「税」の分析対象にしていること、前述の通り、平成の大合併の狙いが財政基盤の強化であったことを勘案すれば、地方税の問題と無縁ではない。 |