諸橋 陽一 稿「事業用の区分所有建物の管理費等の消費税課税区分についての考察」

諸橋 陽一 稿 (明治大学大学院 院生)
「事業用の区分所有建物の管理費等の消費税課税区分についての考察」

 本論文は、事業用にマンションなどを区分所有する者の、消費税負担の問題を取り上げる。管理組合が区分所有者から収受した管理費を使って、管理・修繕のために外部事業者に支払う代金を仕入税額控除できるか否かに関して、管理組合が民法上の任意団体である場合と人格なき社団である場合とで扱いが異なり、後者の場合、仕入税額控除が認められていない。そのため、区分所有者の税負担が前者の場合に比して重くなっている。本論文は、このことの問題性を論考する。第1章では消費税法の概要を、第2章では区分所有法の概要をそれぞれ説明した後、第3章で管理組合が人格なき社団である場合の3つの判例を吟味する。第4章は、事業用建物のライフサイクルコスト、すなわち建築費と建築後の維持管理・修繕費用との関係を概説している。そのうえで、第5章ではそれまでの議論を総括し、管理組合の法的性格で消費税法上の扱いが異なることに疑問を呈し、自らの提言を行う。

 第1章は、消費税の計算構造や税率の変遷、課税仕入れ、民法上の任意組合、人格なき社団等基本的な事項の説明に充てられており、やや蛇足感があるものの、その他の章は概ね無駄な記述がなく、必要なことをコンパクトにまとめている。第3章では比較的新しい3つの判例-福岡地裁平成21年判決、大阪地裁平成24年判決、那覇地裁平成31年判決-を吟味しているが、丁寧に論じつつも、ややもすると冗長な引用をする論文が多くみられる中、本論文は必要な部分だけにとどめている。こうした執筆姿勢は論文を読みやすいものにしている。

 第4章は、事業用建物のライフサイクルコストの現実、すなわち、建築費よりも建築後の維持管理・修繕費用の方が相当程度多額になることが多いことを指摘して、管理費に係る消費税問題の重要性を論考しており、筆者の視点の独創性が見られる。第5章は読みごたえがあった。過去の判例を11項目にわたり良く整理し、そのそれぞれについて、学者らの意見を丁寧に参照しつつも安易な引用に頼らず、自分の言葉でロジックを明確かつ臆することなく展開している。誤字脱字や項目だての乱れも認められない。最後に行う提言も、簡潔に書かれていてわかりやすい。すなわち、支払時点では前払金として扱い、管理組合が現実に外部事業者から役務の提供を受け、その対価の支払をしたときに、区分所有者においても管理組合からの通知をもって、その前払金を課税仕入れに振り替えるというものであり、合理的で説得力を持ち、実践的である。

 惜しむらくは、区分所有者、管理組合、外部事業者の3者間の関係を描いたイメージ図(p9、11)が抽象的でわかりにくかった。このような複雑な事案の説明では、単純な数値例を用いるとわかりやすいことが多い。こうした点に改善の余地が認められるものの、本論文は全体として、実務的で明確な問題意識から出発し、関連する判例や学説等を丁寧に論じてた優秀な論文と評価できる。 

論 文(PDF)