石井 琢磨 稿「我が国の租税法上の外国事業体の取扱いに関する一考察」
石井 琢磨 稿 (明治大学専門職大学院 院生) 「我が国の租税法上の外国事業体の取扱いに関する一考察」
本論文は、デラウェア州LPSの租税法上の性質決定について争われた最高裁判決とは異なる解釈を示した、米国LPSをパススルー事業体として取扱う国税庁の英文文書が投げかける問題を検討したものである。 第1章では、我が国の租税法における事業体の取扱いを確認し、第2章では、米国の租税法における事業体の取扱いを紹介する。第3章では、ニューヨーク州LLC、デラウェア州LPS、バミューダLPSといった外国事業体の性質決定が争われた裁判例を取り上げ、第4章では、最高裁判決からもたらされる課税実務上の影響と国内法の対応、第5章ではハイブリッド事業体に対する諸外国の取組みを紹介し、第6章で考察と提言を示す。 結論として、外国事業体の性質決定は、支配の有無にかかわらず、他国の取扱いに統合される方法により取り扱うのが望ましいとする。 筆者の問題意識と課題は明確であり、本論文は、最高裁判決後の混乱から公表された文書が租税法律主義の観点から問題があるため、外国法人の性質決定を明確化することによる解決策を探る。ハイブリッド・ミスマッチへの対応を示したデンマークの取扱いをヒントに、パススルー課税がされる外国事業体につき、その本店所在地国の法令規定により、その所得が株主等の所得として取扱われる場合には、その取扱いに合わせることでミスマッチを回避する方向性を提言する。同時に、我が国における組合課税の整備の必要性も指摘する。 外国事業体の裁判例を扱った先行研究は多くあるが、本論文は最高裁判決後の実務上の取扱いの問題点に着目し、その解決策を見出そうとしたところに特徴がある。筆者は、本論点に関する主要な文献を渉猟し、BEPSプロジェクトにおける議論、外国事業体に係る取扱いについての米国や英国等のアプローチを検討し、現時点での我が国租税法における外国事業体の取扱いについての議論の到達点をよく整理しており、論旨がわかりやすく、論文全体として要領よくまとめられている。 本論文では、我が国租税法にける外国事業体の取扱い及び裁判例に重点を置いているが、ハイブリッド事業体の租税法上の取扱いについての解決に向けた論証に重点を置くことで、さらに水準の高い研究となったのではないかと思われる。論文において、若干の誤字が見られる点は残念であるが、致命的なものではない。 以上から、租税資料館賞の受賞に値するものと評価した。