小林 竜大 稿「特許権取引と課税―職務発明対価の所得分類の問題点について内国歳入法典1235条を参考に―」

小林 竜大 稿 (関西大学会計専門職大学院 院生) 「特許権取引と課税―職務発明対価の所得分類の問題点について内国歳入法典1235条を参考に―」

 本論文は、米国内国歳入法典 1235 条及びそれに関する判例等を参考にして、職務発明対価の所得税の所得区分の問題を立法的提案も含めて検討するものである。  本論文第 1 章では、日本における職務発明対価の所得区分の問題を扱い、職務発明対価は給与所得ではなく譲渡所得とすべきであるが、対価の支払時期によって異なる所得類型に区分されうること及び特許を受ける権利の帰属先によって異なる所得区分に該当するという問題点が存在するため、この所得区分の問題を解釈論だけで解決することは困難であり、立法論が必要になるとしている。第 2 章では、米国内国歳入法典 1235 条及びそれに関する判例等を紹介し、従業員への支払に関する同規定の適用要件が 2 種類あること(①発明のための雇用要件、②真実の譲渡要件)を指摘している。第 3 章では、まず、米国の特許権取引に関する検討から、次の 4点の示唆を得ている。すなわち、①1235 条が適用される取引についてはその対価の支払形態を問わず、1 年以上保有していた資本資産の売却または交換とみなすということ、②職務発明取引を含む特許権取引に対する課税には特別規定を設けることが必要であるということ、③雇用主から従業員発明家へ支払われる対価に関する 1235 条適用可否の判断基準を明文化することは困難であること、④判例によれば従業員への支払に関する 1235 条の適用可否の判断要素として「発明のための雇用」と「真実の譲渡」の 2 要件を充足するか否かで判断しているということ、である。その上で、職務発明対価の所得区分を譲渡所得に統一するための立法を提案し、具体的条文案を提示している。  本論文は、立法による解決策について、米国の内国歳入法典1235条の規定に示唆を求め、当規定の沿革、法律の構造、判断基準を巡るこれまでの裁判例を考察しており、比較法研究の手法としての基本に忠実と評価される。学術論文としての形式も整っており、米国の制度・判例紹介の部分もやや文献等の引用は少ないながらも最低限必要な引用はなされている。  立法的な提言として、①納税義務者:職務発明取引を行った従業者等、②課税物件:従業者等が職務発明取引によって得た所得に限定、③所得区分:権利の帰属先や対価の支払形態を問わず譲渡所得とする規定を新設、④適用の判断基準:「真実の譲渡」として具体例を例示列挙することを検討しており、その提言内容も具体的と言えるのであって、決して空理空論を展開しているものではない。  以上を要するに、本論文は租税資料館奨励賞を授与する価値のある論文であると結論づけることができる。    なお、望蜀であるが、適用の判断基準と位置付けている「真実の譲渡」は、筆者自身も認めるように、いわゆる不確定概念と評価されるため、さらに具体化・明確化を図ることができれば、比較法研究の水準もさらに高まったのではないかと思われる。

論 文(PDF)