坂田 凌河 稿「法人税法における部分貸倒れの研究」

坂田 凌河 稿 (大阪学院大学大学院 院生) 「法人税法における部分貸倒れの研究」

 本論文は、貸倒損失の認定基準を論じるうえで、金銭債権の一部が回収不法になる、いわゆる部分貸倒を損金に算入することを認めるべきか否か、認めるとすればどのような方法によるべきかを検討するものである。この問題はいわゆる興銀事件において争点となったものであるが、当時の判例および租税実務取扱いでは、部分貸倒については個別評価金銭債権として、貸倒引当金の損金算入を認めていた。しかし、平成23年度税制改正で貸倒引当金が原則禁止となったため、部分貸倒の損金算入については新たな理論的検討が必要であるとして、それを行うものである。第1章では、企業会計および法人税法における貸倒損失の取り扱いを、第2章ではそれらにおける貸倒引当金を、第3章では部分貸倒論の核心的論点をそれぞれ確認している。第4章では、部分貸倒論における重要2文献-金子宏『租税法理論の形成と解明 下巻』(有斐閣、2010)と太田洋「『部分貸倒』の租税法上の取扱い―『失われた10年』と税制上の桎梏」(税系通信56巻3号、2008)-を詳細かつ批判的に検討する。そのうえで、解釈論では解決不能な問題が残される、立法論として貸倒引当金制度の復活が必要であると主張する。すなわち、「部分貸倒を3号損失として直接損金算入することが困難であるという結論」に至り、「部分貸倒については貸倒引当金を用いて間接的に損金算入を行い、全部貸し倒れについては貸倒損失として直接損金算入を行うという形に戻すことが」最も望ましいと結論付ける。  本論文は、企業会計と税務会計の乖離というコンテクストにおける、部分貸倒にフォーカスを当てている。筆者は「部分貸倒は認められるべきである」としつつ、法令等の解釈論によることの限界を認めて、立法論的な解決策を主張するが、その論理展開においては、読者にもわかりやすく基礎的な概念から積み上げて、法令・通達の説明、伝統的な一般学説(評価損計上禁止説、総財産担保説)、判決(興銀事件)、重要文献の考察を、バランスよく展開している点で優れている。特に、重要文献の解説においても批判的な視点を失わず、不備は不備として率直に、果敢に指摘している点は、評価に値する。こうした論理展開や分析態度は、筆者の結論を説得的たらしめている。筆者の主張に対しては、法人税率引き下げ等に対応して廃止された貸倒引当金の制度について、何故、金銭債権の部分貸倒に対してだけ貸倒引当金の制度を復活すべきか論理的整合性が弱い等の批判が予想されるものの、相当程度の論拠を示して反論を試みている。  書き方の問題としても、無駄な叙述の重複もなく、他者の叙述の引用も適当な長さである。一文一文も長すぎず簡潔性を維持しており、こうしたことは本論文を読みやすいものにしている。第1章での基本通達の引用は、必要性や分量の適切性にいささか疑問がないわけではないが、この点を考慮しても、内容面、形式面において、租税資料館奨励賞受賞レベルに達した論文であると評価する。

論 文(PDF)