佐藤 直彦 稿「宗教法人に対する収益事業課税に関する一考察―収益事業課税から使途に着目した課税制度への検討を中心に―」

佐藤 直彦 稿 (産業能率大学大学院 院生) 「宗教法人に対する収益事業課税に関する一考察―収益事業課税から使途に着目した課税制度への検討を中心に―」

 本論文は、宗教法人に対する課税制度のあり方について、宗教法人の公益性、非営利性の観点から検討し、その収益課税制度の改正に関する私案を結論として示している。  第1章では公益法人制度改革の経緯を辿りながら、公益法人の性格やその収益事業に対する課税制度を概説し、続く第2章において宗教法人制度と宗教法人に対する課税制度について論じ、他の公益法人税制との違いを確認している。その後、宗教法人に対する収益事業課税をめぐるペット葬祭業事件と墓石・カロート事件の裁判例を分析した第3章を経て、第4章では宗教法人の収益事業課税に関する各種問題点を明らかにしている。以上の検討を踏まえ、最終章となる第5章では新たな課税制度の提案を行っている。  その提案の要点は、宗教法人に対する非課税制度を「非営利性」の観点から設計することである。具体的には、「非営利性」の判定については、非営利型一般社団法人・財団法人の要件である法人税法施行令3条を援用し、これと同様の要件を満たした宗教法人のみが「非営利性が徹底された宗教法人」として、別表第二に掲げる公益法人等となる。それ以外の宗教法人は、法人税法上、一般社団法人・財団法人と同様に普通法人として課税される。    また宗教活動と収益事業との線引きに関しても次のような改革案を示している。すなわち、「非営利性が徹底された宗教法人」に対し、現行法人税法における34特掲事業に該当する事業については当該年度に即時課税し、判定が難しい事業に対してはいったん非課税の宗教活動として扱う。この宗教活動からの収入のうち、その後一定期間内に宗教活動のために消費されず内部留保となった部分を課税対象とする。  宗教法人の税制はテーマとしては珍しくないが、その多くは宗教活動と収益事業の峻別について、裁判例の分析を中心に論じていく内容が多いように思われる。翻って本論文は、宗教法人が原則非課税の恩恵を享受する存在かどうかを、公益性・非営利性の観点から検討し、あまつさえ「宗教とは何か」というラジカルな問題から掘り起こしている点に特徴がある。その意味では、126ページに及ぶボリュームとともに、スケールの面でも大作と言える。また、おそらくは著者の執筆動機であろう「道義心」が随所に垣間見える、熱のこもった論文でもある。  一方で、宗教法人課税の現状の把握は緻密に行われ、膨大な先行研究の丹念な分析と提題に関する明晰な論証の結果として私案を提示していることも評価できる。さらにその私案については、所得ではなく、むしろその使途に着目した留保金課税を導入するという点で独創的といえる。 以上、本論文は、租税資料館奨励賞の受賞の水準に十分達していると判断する。

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