菅原 澪平 稿「税法上の行為計算否認規定における否認のあり方― 「税務署長の認めるところにより」の解釈を中心に―」
菅原 澪平 稿 (青山学院大学大学院 院生) 「税法上の行為計算否認規定における否認のあり方― 「税務署長の認めるところにより」の解釈を中心に―」
本論文は、同族会社等の行為計算否認規定及び組織再編成に係る行為計算否認規定における、否認のあり方について論じたものである。具体的には、「税務署長の認めるところにより」の解釈を中心に、当該規定の立法趣旨、沿革等の観点から、否認のあり方が論じられている。 本論文は、「はじめに」と「おわりに」を除き全7章で構成されている。第1章では、行為計算否認規定における否認方法の観点から裁判例、学説、問題点について確認している。第2章では、行為計算否認規定の趣旨、沿革を整理するとともに、課税要件について、先行研究と裁判例等の判断の枠組みを整理し詳細に検討している。第3章では、租税回避の定義及び租税回避の否認の定義について検討し、伝統的な議論と、「最高裁平成28年判決」以後の議論について検討している。第4章では、否認に関する学説(狭義説及び広義説)について整理・検討し、第5章において、現在の租税回避の類型(①不合理型、②制度濫用型)と、租税回避の否認方法について整理している。第6章では、過去の裁判例を否認方法の観点から、①計算否認型、②独立当事者間取引置換型、③通常行為置換型、④非明示型の4つに類型化し、狭義説を適用して検討を行い、狭義説がより明確な基準を導き出せるとの結論を明らかにしている。第7章は本論文の総括である。 従来、行為計算否認規定に関しては、「不当性要件の解釈」や「否認の対象とする行為・計算の範囲」について活発な議論があるものの、対象となった行為・計算が「どのように否認されるのか」については、未だ議論の余地があるとされる。かかる問題意識のもとで、本論文は「税務署長の認めるところにより」という文言に焦点をあてて考察し、税務署長の裁量を狭く認める狭義説に立ち、「行為計算否認規定における否認は、租税回避の否認に限られるべきである」と結論づけている。その論拠として、①行為計算否認規定は租税回避の否認規定と解されること、②租税回避の否認に限定することにより、税負担の公平を図ることができること、の2点をあげている。 本論文について、参考文献や裁判例の渉猟は十分になされていると評価できる。提示した結論は、行為計算否認規定の立法趣旨や沿革等の丹念な整理に基づくものであり、論理的かつ説得的である。また、論旨は明快であり、類型化された学説の説明も分かり易い。特に、筆者が作成した、「図表1」は租税回避の議論について、「①伝統的な租税回避」と「②現代の租税回避」とを「租税回避の類型」「租税回避の否認の類型」「不当性要件の判断基準」により整理し類型化したものであり、簡潔で分かり易い。また、租税回避は現代的な議論を中心に展開されており、新規性のある論文としても評価できる。以上により、租税資料館賞に値する論文であると評価するものである。