田中 信行 稿「組織再編税制における課税繰延と欠損金の引継ぎに関する研究―「支配の継続」概念の整合性及び課税繰延要件と欠損金引継要件の混同の問題を中心として―」

田中 信行 稿 (青山学院大学大学院 院生) 「組織再編税制における課税繰延と欠損金の引継ぎに関する研究―「支配の継続」概念の整合性及び課税繰延要件と欠損金引継要件の混同の問題を中心として―」

 本論文は、(1)日本の組織再編税制における「支配の継続」概念が、度重なる税制改正により制度創設当初から乖離しており、整合的な説明が困難になっている点、および(2)組織再編税制における「課税繰延要件」――「移転資産に対する支配の継続」や「経済実態に実質的な変更がない」こと――と「欠損金引継要件」の裁判例において混同されている点を問題意識として出発している。  上記問題意識の下、本論文は、組織再編税制における課税繰延と欠損金の引継根拠を区別することで、両者を混同する根拠がない旨を論じる。その上で、グループ通算制度と課税の中立性の観点から、欠損金引継制限として、課税繰延理論とは区別する形で、「事業継続性」ではなく「所有変化(株主の変化)」に着目をする制度にすることを提言する。本論文は、第1章:組織再編税制の概要と課税繰延の基礎理論を、第2章:繰越欠損金の法人間移転の基礎理論、第3章:組織再編税制に係る欠損金の引継ぎが争われた裁判例、第4章:未処理欠損金の引継制限の提言から構成されている。  本論文は、ヤフー事件やTPR事件で潜在的問題となっている組織再編税制の適格要件と欠損金の引継要件に関する混同という重要な論点について、検討を加えるものである。本論文の特徴として、単に日本の裁判例と関連する諸外国の制度を表層的に整理・紹介するだけでなく、日本法の母法にあたるアメリカ法の構造及びその理論的根拠という基礎理論に立ち返って検討を加えている点は高く評価できる。また、組織再編における課税繰延要件と欠損金の引継要件の裁判例における混同について、有力な先行研究を丹念に渉猟した上で、単なる紹介でなく、筆者の視点から各論者の指摘を整理している点に一定の独自性を認めることができる。法人取得の結果として所有変化があった場合に欠損金の引継ぎ制限を課す所有変化アプローチに基づく欠損金の引継ぎ方法を望ましいとするが、説明が明瞭で説得力があり、それに続く提言も論理が破綻することなくわかりやすい。日本の制度はアメリカのように組織再編税制とは別に欠損金の引継ぎルールを定めていないことを筆者は問題視しているのである。なお、欠損金を研究するのであれば、資産の含み損も扱うべきところ、本稿ではその部分が手薄となっているが、それは筆者自身が認めるところであり、今後の研究の進展が期待される。

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