丹野 豪 稿「配当に係る税法と会社法の不整合―国際興業事件を題材にして―」

丹野 豪 稿 (産業能率大学大学院 院生)
「配当に係る税法と会社法の不整合―国際興業事件を題材にして―」

 本論文は、配当課税に係る思想と現実の乖離およびその変遷を明らかにし、投資者の視点からあるべき配当課税について検討することを目的としている。全7章構成で200 頁近くの力作であり、紙幅の大部分は資本剰余金の額の減少を伴う配当に割かれている。本論文は、国際興業事件を題材に、税法と会社法の不整合をめぐる諸問題の検討を通じて、今後の配当課税のあり方について、次の 3つの結論を導き出している。

 ① 「法人税法 24 条 1 項 4 号」(「資本の払戻し」)の意義を文理解釈から確認し、同法が会社法からの借用概念である「資本剰余金」を用いた背景と問題点を洗い出すことによって「配当に係る税法の規定で会社法の『資本剰余金』を用いる積極的な理由はない」としている。

 ②「混合配当」の諸問題(配当先後関係など)を整理し、「利益積立金額がマイナスの法人による配当」の背景となった、わが国および諸外国の配当規制を検証し、「政令」(法人税法施行令 23 条 1 項 4 号:「資本の払戻し」)が「法律」(「法人税法 24 条 1 項 4 号」)の「委任の範囲を逸脱した場合」を検証することによって、「配当に関して会社法が確定決算主義を放棄した以上、税法も同様の対応が必要である」としている。

 ③「法人税法 61 条の 2 第 1 項」(「みなし配当先取りルール」)と株式譲渡損益の意味を明らかにし、「子会社簿価減額特例」(「令和 2 年度税制改正」)が導入された背景を検証し、「配当の本質」とわが国税制における「配当課税の不整合」を明らかにすることによって、「株式譲渡損益の計上については、株主の視点を踏まえて解決策を見いだすことが必要である」としている。

 本論文は豊富な文献資料に基づく力作である。しかも、判例については、すべてに「筆者による解釈」を付すことにより、筆者の見解がきめ細やかに論じられており、その論旨と結論は説得的である。また、利益剰余金を原資とする配当をも研究の射程に含め、配当税制について総合的な提言を行っている点もこれまでにはない視点であり大いに評価できる。

 他方、検討が細部にまで及ぶため、特に数値例による検証について再考の余地がある。しかし、こういった点を考慮しても、本論文は租税資料館奨励賞受賞の水準を十分に満たしていると評価できる。

論 文(PDF)