辻本 祥之 稿「重加算税の賦課要件の解釈―積極的な隠蔽仮装行為を伴わない場合を中心に―」

辻本 祥之 稿 (青山学院大学大学院 院生) 「重加算税の賦課要件の解釈―積極的な隠蔽仮装行為を伴わない場合を中心に―」

 本稿は国税通則法68条1項が定める過少申告に該当する要件を充足しながら、国税の課税標準等・税額等の計算の基礎となるべき事実の全部または一部につき隠蔽・仮装していた場合に課される重加算税について、課税要件の解釈・適用ぶりを最近の裁決・裁判例に基づき検証するものである。 まず1章では、積極的な隠蔽仮装行為が行われなかった事案でありながら当局の重加算税賦課を認めた2つの最高裁判決(平成6年と7年のもので、いわゆる広義のつまみ申告の事案に対する判決)を題材として、①「隠蔽・仮装」の認定がどのような要件が整った場合に可能としたのか、②最高裁が示した「当初から過少申告を意図し、その意図を外部からうかがい得る特段の行動をしたうえでの当該意図に基づく過少申告」についての総合判断の在り方、を検証するとの本論文の課題抽出を行っている。 2章では、重加算税の立法史を踏まえたうえでの同制度の趣旨・目的の確認を行い、更に3章では重加算税賦課の基本要件である「隠蔽仮装行為」の意義を判例学説により検証を行っている。これら2つの章は、1章で言及した2つの最高裁判決が要請する事案ごとの総合判断のための法制度の趣旨・目的の確認という位置づけとされている。そこで、4章では1章で取り上げた2つの最高裁判決について、その射程の範囲を確認し、①平成6年判決については事実関係総合勘案説(品川教授のまとめを参照)でのアプローチを示したものであり、②平成7年判決についてはは顧問税理士への不告知事案の先例であることを確認している。 次いで、5章では、積極的な隠蔽仮装行為を伴わない場合の重加算税賦課に係る多くの判例等の中から、特段の行動の存否が争われた事案の検討整理を行い、続く6章では、最高裁判決の趣旨を「事実関係総合勘案説」とまとめた品川教授の整理に沿って、さらに危険性アプローチ、2段階アプローチ、3段階アプローチの3種類に分類して比較検討の上、最終的には、その中の3段階アプローチが適切であると結論付けている。 先例となる平成6年と7年の最高裁判決の判断枠組みの具体的適用の在り方の検討のために、その後の多くの判決・裁決を材料とし、独自の分類方法で比較検討を行っているのは、修士論文としてはデータの渉猟と分析の精緻さの点で、優れたものと思われる。この方法は、判例研究の科学的な一方法としてエネルギーのいるものであるが、その分だけ自説の正しさについての説得力を増していると思われる。 なお、1章で紹介した2つの最高裁判決は、4章で再確認するとともに、7章で自説の適用によりどのような答えになるのかを検証するなど、繰り返し重複して参照されている点は、論文の読者に正確な読み方をする上で緊張感を与える点は否めないが、各章が担う起承転結の展開ぶりのチェックと認められ、論理性を担保するものとも評価できるので、本論文の評価を貶めるものではないと判断された。

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