早川 太策 稿「外国事業体からの分配に係る課税上の取扱い―不明瞭性と租税回避余地に対する「3段階アプローチ」の提言―」

早川 太策 稿 (筑波大学大学院 院生) 「外国事業体からの分配に係る課税上の取扱い―不明瞭性と租税回避余地に対する「3段階アプローチ」の提言―」

 本稿は、外国のハイブリッド事業体からの分配がもたらす法人税法上の取扱いの中で、特に、みなし配当に係る税法規定が、会社法の「剰余金の配当」の借用概念を参照しているために解釈の不明瞭さを残している点を指摘し、そのことが原因となって、会社法上の資本剰余金に依拠する現行のプロラタ計算の仕組み等が助長する恣意的な譲渡損失創出による「租税回避余地」を問題視する論文である。すなわち、不明瞭さの原因は、法人税法に剰余金の配当の定義がなく、会社法の剰余金の配当や資本剰余金に依存している体質が問題と指摘している。この点に関しては、比較法分析により、米独のような会社法に依拠しない税法独自の配当概念の妥当性を紹介している。  筆者は、係る課題に対する対処策としては、資本と利益の峻別を踏まえた税法独自の配当概念を確立させたうえで、外国における課税の実態(法人課税かパススルー課税か)を申告させて、いわゆるリンキングルールによって不明瞭さと租税回避余地の課題を解消すべきと主張するものである。  まず1章で不明瞭性と租税回避余地という課題を設定し、2章では借用概念に依拠する現行法の判断枠組みが外国ハイブリッド事業体の登場・拡大の中で限界に達しているとの分析を行い、3章で比較法分析を行ったうえで、新たな租税法独自の配当概念の必要性を説き、最後に、その場合に必要な調整措置にまで検討を行っている。  国際的なM&Aや外国企業とのJVが拡大する中での国境を超える事業体間分配がもたらす税法上の課題は、高度の実務家の関心が高いものの、修士課程でのテーマとしてはハードルの高いものと思われる。  筆者は、この課題に果敢に取り組んでおり、外国事業体からの分配を租税回避余地の観点から分かりやすく3つに類型化(会社法に依拠したみなし配当、利益剰余金と資本剰余金の間で振替した上での配当、マイナスの利益剰余金からの配当)して、それらの課税上の課題を解説している。これらの課題に対しして筆者が主張する「3段階アプローチ」は、論理的かつ実証的であり、説得力がある。すなわち、米・独の税法独自の配当概念の導入により、資本と利益の峻別に基づく一貫性のある課税理論を整備すべきと主張し、具体的処方箋としては、いわゆるリンキングルールによるミスマッチ防止策を提案している。  このルールをハイブリッド事業体からの分配に適用するには、筆者も言及する通り、各種の調整措置が必要となり、その検証は本論文中で完全になっているとは思えないものの、論文全体として、読者をひきつける論理性や実証性に富んでおり、筆者の実務経験と理論分析がうまくかみ合った説得力に富んだ優れた修士論文と判断される。

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