伏見 俊雄 稿「自社利用ソフトウェアにおける臨時的な償却規定の適用性に関する研究―クラウドサービスを中心として―」

伏見 俊雄 稿 (筑波大学大学院 院生) 「自社利用ソフトウェアにおける臨時的な償却規定の適用性に関する研究―クラウドサービスを中心として―」

 本論文は、法人税法上の減価償却における臨時的な償却規定の、自社利用ソフトウェアに対する適用可能性について検討するものである。  クラウドに保存される原本にアクセスさせサービスを提供するタイプのソフトウェアは、製品マスターを複写して販売する従来の販売形態との違いのみをもって、制度上は「その他のソフトウェア」とみなされ、「市場販売目的ソフトウェア」との間に耐用年数の不均衡が生じてしまっている。この不均衡は、税負担の中立性、公平性、予測可能性、および課税の執行の容易性を損なう可能性がある。それにもかかわらず、減価償却の弾力性や減損会計をめぐる企業会計と税務会計との間の不一致、あるいは有形資産のみを想定した現行の臨時償却規定の無形資産に対する適用解釈の不明確さという問題ゆえに、その不均衡の解消が現行制度において困難となっている。これが筆者の問題意識であり、本論文の副題の所以でもある。  この問題を解決するため、筆者は解釈論からのアプローチを試み、クラウドソフトウェアを含めた自社利用ソフトウェアに臨時的な償却規定が適用可能であることを結論として指摘する。この結論に至るまでに、筆者は法人税法33条、同施行令48条の4、57条、60条など、関連する現行規定を詳細に検討した後、経済的陳腐化を事実認定するための要件を考察している。そこでは、耐用年数の短縮と特別な償却の申請において、その合理性を確保するために開示・文書化すべき事柄を明らかにしている。筆者によれば、それらを常時作成する実務慣行はすでに成立しており、税務当局においても、臨時的な償却を合理的と判断する余地は十分にあるとの見解を示している。  また、アメリカとドイツの企業会計および税法における減価償却制度を論じ、我が国の現行制度が、両国に比べ産業競争上やや不利な制度であること、制度の見直しが行われる場合の課題として、減損損失の損金算入を検討する必要があることを指摘する。  問題意識、論文の目的、アプローチ、結論がいずれも非常に明確に示されている。関連制度・規定およびその解釈も、その複雑さにも関わらず非常に分かり易く整理されており、叙述も簡潔で読みやすい。臨時的な償却の申請・承認に必要な資料が、一般的な企業実務の中で十分に整うことを明らかにしている点で、結論にも説得力がある。  また、やや安易とも思われる制度改正・新規定の提案を結論とする応募作も少なくない中、現行法を丹念に解釈し、その中で問題の解決を図ろうとする姿勢も着実であり、好感が持てる。 以上の点で、本論文は租税資料館奨励賞に相応しいものであると評価する。

論 文(PDF)