武藤 裕之 稿「交際費課税制度の研究―福利厚生費の論点を中心として―」

武藤 裕之 稿 (青山学院大学大学院 院生) 「交際費課税制度の研究―福利厚生費の論点を中心として―」

 本論文の目的は、仮想空間での行為と現実空間での行為の混在といった、従来想定していない状況(従来の勤務形態にとらわれない働き方)が生じた場合、コミュニケーションを円滑にし、組織を活性化させるための費用が、「福利厚生費」となり得ることを論じることにある。  本論文は、4章から構成されている。第1章では、交際費等の意義、現状および問題点、並びに交際費課税制度の変遷が手際よく整理されている。第2章では、交際費等と福利厚生費・給与の区分が検討されている。第3章では、交際費等の除外規定の「通常要する費用」について、裁判所の判断が緻密に分析されている。第4章は本論文の核心部分であり、今後のインターネット技術の進展(Web 3.0)により起こりうる諸問題を論じている。具体的には、まず、次世代インターネット社会(Web 3.0)とその根底技術であるブロックチェーンが確認され、次に、現在わが国が抱えている少子高齢化問題とそれに対する働き方の変化が考察される。また、租税におけるWeb 3.0技術の進展と少子高齢化がもたらす影響が税務行政面から検討され、交際費課税制度に与える影響が福利厚生費を中心に論じられている。  以上の議論を踏まえ、本論文では、「租税特別措置法第61条の4」(交際費等の損金不算入)の規定を解釈・適用すると、「仮想空間における行事でも、福利厚生事業としての本質を有し、社会通念の範囲内であれば、福利厚生費として認められる」と結論づけている。  本論文は、インターネット技術の進化(Web 3.0)により、従来の働き方が変わった場合の福利厚生事業の変化および交際費課税制度に与える影響について詳細に考察したものであり、従来にはない新たな着眼点に基づくユニークな作品である。従来から、「交際費課税」に関する著書・論文は多数あるが、これらのすべては、本論文が対象とする仮想空間における新たな経済事象を対象とするものではない。その意味では、本論文は「交際費課税制度」のあり方に対する新たな挑戦ともいえる作品であり、そのチャレンジ精神を高く評価したい。また、従来と異なる働き方をめぐる費用を、福利厚生費とみなす着想は、独創的かつ斬新である。しかも、本論文で展開されている論述は、総じて明快かつ説得的であることから、本論文は、今後の交際費課税のあり方に一石を投じた論文として、高く評価できる作品である。

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