春日 克則 著『非営利法人における収益事業課税の理論と展開―組織の本質的な特徴との関連からの課題―』
春日 克則 著 (九州産業大学 名誉教授)
『非営利法人における収益事業課税の理論と展開―組織の本質的な特徴との関連からの課題―』
(2025年1月 同文舘出版株式会社)
本書は、現行の非営利法人に対する収益事業課税が抱える構造的な問題に対して、会計理論と法人税法体系の双方から批判的に考察することにより、その解決策を提示することを試みた意欲作である。著者は、①収益事業の範囲が限定列挙されていること、②資本概念を欠いたまま所得金額を算定していること、③諸規定が非営利組織の本質的な特徴に根差したものになっていないこと、の3つを非営利法人の収益事業課税制度が抱える問題点として指摘している。
①については、収益事業を限定列挙する法人税法施行令5条1項の定義を外延的定義であり、納税者の予測可能性を損なうとして、これに代わるものとして、SFAC第4号を手掛かりに、ⅰ資金の拘束性、ⅱ資金の循環過程の差異、ⅲ資本等取引と損益取引の区分、という3つの視点に着目した新たな選択基準を示している。②については、資産と負債の差額を資本として認めないという資本概念を欠いたまま所得計算が行われていることは、資本等取引と損益取引とを区分することにより所得計算を行うことを規定している法人税法22条に反するものであるとして、租税法律主義、税務会計の観点から無視できない問題であると指摘する。資本概念を欠くという、非営利法人の収益事業課税における根本的な問題について正面から取り組み、会計主体論からその解決策を提示しようとしたもので、先行研究にはない着眼点と評価することができる。③については、会計主体論から資本概念を導出し、非営利組織の本質的な特徴との関連から、論理一貫した形で導出された、首尾一貫した所得計算体系を確立することを目指すものである。
本書の提示した収益事業課税の新たな選択基準は、現行の「収益事業のみに課税」から、非営利法人の資本概念に基づいた「投下資本の余剰分に対する課税」への転換を意味するものであり、収益事業課税にとどまらず、非営利法人の課税制度そのものの変革にまで範囲が及ぶ可能性を秘めたものであるといえる。それは、理論面だけではなく、実務面や制度面にまで影響を及ぼす可能性を持つものと言え、法人税法の課税標準である各事業年度の所得の金額について、資本概念の違いを明示することによって、営利法人と非営利法人とを統合する枠組みの構築に繋がりうる制度改革の方向性を示していると言える。
一方で、本書は「非営利法人」の範囲について、公益法人、学校法人、独立行政法人及びNPO法人に限定して検討しているが、制度的紹介にとどまっており、分析的検討にはやや踏み込みが不足する。提示された理論的解決策が、現実の制度において、どの程度受容されるかについても、これからの議論に負うところである。とはいえ、非営利法人における収益事業課税のあり方について、「会計主体論」や「資本概念」という新たなアプローチにより取り組んだ意欲的な著書であり、今後の制度設計に対しても示唆を与える研究であると評価することができる。