片桐 正俊 著『米国租税政策・税制展開の財政学的考察―ブッシュ(子)、オバマ、トランプ、バイデン政権下の税財政分析―』
片桐 正俊 著 (中央大学 名誉教授)
『米国租税政策・税制展開の財政学的考察―ブッシュ(子)、オバマ、トランプ、バイデン政権下の税財政分析―』
(2024年11月 株式会社日本評論社)
本書は、米国の財政及び租税政策の動態変動に関する考察を研究課題としてきた著者が、これまでに公表した『アメリカ連邦・都市行財政関係形成論-ニューディールと大都市財政-』(御茶の水書房、1993年)、『アメリカ財政の構造転換-連邦・州・地方財政関係の再編-』(東洋経済新報社、2005年)に次ぐ3冊目の研究書と位置付けられる。
本書では、ブッシュ(子)政権(第1~5章)、オバマ政権(第1~4章、6~8章)、トランプ政権(第9~10章)、バイデン政権(終章)の期間を考察の対象として、連邦税制に関する租税政策と租税支出政策が丁寧にトレースされている。
著者の問題意識としては、米国では、「見える福祉国家」だけでなく、「隠れた福祉国家」や、所得税の累進構造も採用されているにもかかわらず、再配分機能が十分に機能せず、経済格差がなぜ拡大しているのかという点であり、本書全体を通じて一貫して構成されている。
ブッシュ減税とトランプ減税を通じて構造化された連邦税制の租税支出においては、所得控除や優遇税制を多く利用する富裕層に税制上の恩典の大半が帰着して、中・低所得層へあまり恩恵が及んでおらず、その結果、連邦税制の累進性と所得再配分効果が弱まり、経済格差拡大に歯止めをかけることができなくなってきていることを明らかにした点は、本書の成果と評価される。
本書の特色の一つとして、数多くの図表や豊富な政府資料を用いて、詳細に米国の財政・租税政策の動態変化を示している点が挙げられる。そして、レーガン政権から共和党政権で引き継がれてきたトリクルダウン経済学による減税や規制緩和を軸とした経済政策に対し、民主党政権による中間層(ボトムアップ、ミドルアウト)経済学を対比させて、税制改革の内容を分析し、効果予測及び効果測定を考察する構成は、分かり易い分析内容となっている。
多くのデータと先行研究についても参照されており、米国の租税制度の変遷の通時的な分析を提供し、資料的な価値も高い研究書として位置付けられる点も特色といえる。米国連邦所得税の政策を政権ごとに整理し、詳細に日本語で紹介した歴史的解説書という点においても、本書には学術的な価値が認められる。
本書における米国の税制改革の内容分析は、個人課税、法人課税、遺産課税等にまで及んでおり、わが国の税財政改革における効果予測や効果測定の分析手法や視点についても、有益な示唆を与えるものといえる。現在の第2次トランプ政権を含め、引き続き米国の財政・租税政策の動態変動の考察が期待されるところである。
以上から、本書は、租税資料館賞(著書の部)に値すると評価できる。