新井 拓翔 稿(無予告要件を定める国税通則法74条の10の適用のあり方―『おそれがあると認める場合』の解釈を中心に―」

新井 拓翔 稿 (青山学院大学大学院 院生)
「無予告要件を定める国税通則法74条の10の適用のあり方―『おそれがあると認める場合』の解釈を中心に―」

 本論文は、国税通則法74条の10の適用要件である「おそれがあると認める場合」(無申告要件)の解釈適用のあり方を、事前通知が原則とされた趣旨、憲法の諸要請と事前通知の関係及び無予告要件の意味内容の検討を通じて、明らかにしようとするものであり、第1章では、事前通知規定の瑕疵が問題になった事例を検討し論点整理を行った上で令和3年判決の示した合理的推認基準の問題点を明らかにし、第2章では、次章以後の検討の準備作業とし税務調査の意義と事前通知規定の内容を確認し、第3章では、事前通知規定の沿革と平成23年改正に対する学説の評価を踏まえ、事前通知が原則とされた趣旨を明らかにし、第4章では、租税法律主義及び適正手続の保障の要請と事前通知の原則の関係を明らかにし、第5章では、無予告要件について課税庁保有情報の範囲と2つの「おそれ」(把握困難のおそれと遂行支障のおそれ)の意義を明らかにし、第6章では、国税通則法74条の10の適用にあり方に関する学説(客観適用説、合理的適用説、裁量説)を整理・検討し、第7章では、以上の検討を踏まえ、「おそれがあると認める場合」の解釈と判断枠組みを、客観適用説の立場から「確証事実存在型」と「確証事実不存在型」の区分に即して明らかにし、第8章で以上の各章の検討を総括している。

 本論文は、国税通則法74条の10を同法の他の規定や憲法との関連において正確に理解し、裁判例や先行研究の整理・検討を十分かつ適切に行っており、論旨も明快である。平成23年度税制改正についても一次文献・二次文献に依拠しつつ検討を加えている点は評価できる。「おそれがあると認める場合」の解釈と判断枠組みを、客観適用説の立場から「確証事実存在型」と「確証事実不存在型」とに区分して明らかにしようとする点には独創性も認められる。

ただ、合理的適用説が推認の根拠とする「一般論」について、令和3年判決のいう「家族経営の中小企業」で留めるのではなく、その意味内容を経験則の観点から実証的に検討し深めるようにすれば、結論をより説得力のあるものにすることができたように思われる。また、研究の視野を行政法分野における先行研究についても広げ検討を加えるようにすれば、本論文に対する評価を更に高めることができたであろう。

 とはいえ、総合的な評価としては、本論文は租税資料館奨励賞を授与するに値する水準を十分に満たしていると思量するところである。 

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