磯 新 稿「取引相場のない株式の財産評価における配当還元方式の取扱いに関する提案」
磯 新 稿 (千葉商科大学大学院 院生)
「取引相場のない株式の財産評価における配当還元方式の取扱いに関する提案」
本論文の構成は次の通りである。
第1章は、相続税法第22条における時価の意義、財産評価基本通達における取引相場のない株式の評価、相続税における課税方式の類型から被相続人又は相続人のどちらの立場で評価すべきであるかを整理している。第2章では、裁判事例から配当還元方式と原則的評価方式との評価額の差異を示している。また、財産評価基本通達における配当還元方式の導入経緯とその後の変遷について整理し、問題の所在を明らかにしている。第3章では、配当還元方式で一物二価が生じている裁判事例を取り上げている。これらの事例では、被相続人は同族株主又は15%以上の議決権を有する株主で、相続人は取得後の議決権割合が一定数を超える株主とされている。第4章では、国際基準(IFRS)の状況、諸外国(欧米主要4カ国)における状況、日本の状況を整理している。そして、現状の配当還元方式の取り扱いの妥当性について検証し、今後の配当還元方式のあり方について提案している。
本論文では、非上場株式の評価方法として、財産評価基本通達の配当還元方式の適用の是非について、考察、検討している。同基本通達では、配当還元方式の被相続人に関する適用範囲が規定されていないこと、同基本通達の改定に伴って相続人に対する適用範囲が拡大されたことが、上記一物二価の問題をより顕著なものとしている。本論文では被相続人が同族株主であって、かつ相続人が零細株主であるケースに絞って、この問題を検討している。結論としては、相続人、被相続人いずれにしても、配当還元方式の適用範囲を限定し、評価に用いる還元率を現行の10%から5%に引き下げることを提案している。
非上場の株式の評価では財産評価基本通達の純資産評価方式でなく配当還元方式を意図的に採用するようにして、その評価引き下げを目論むケースが多く見られるが、非上場株式の評価はいかなる方法で求めることが正当であるかについて、原点にも戻って考察し、自身の提案、すなわち配当還元方式の廃止の可能性、取引相場のない株式の評価の法令化の実現性、中小企業の保護や事業承継との整合性の検証を明確に示したことは、それ相応の評価ができる。
一方、非上場株式の評価方法として、国際財務報告基準(IFERS)を取り上げて考察していることについては、はたしてIFERSの評価方法が税務基準として採用することが適切であるかについては、いささか疑問が残る。もっとも近年では、IFERSを採用している企業は、グループ通算制度の導入に伴う税務上の変更をIAS12に基づいて財務諸表に反映させる必要があることになった。会計と税務の接近についての動向も注視する必要があり、それらにも配慮しながら検討を進めるべきといえる。
それらについて検討の余地があるとしても、決して後ろ向きのものではなく、総合的にみて、租税資料館奨励賞を授与するに値する論文といえる。