轡田 大介 稿「スピンオフ後の分割法人における非支配適格要件の適用対象の限界と是正―元親法人の支配概念に着目して―」
轡田 大介 稿 (大阪経済大学大学院 院生)
「スピンオフ後の分割法人における非支配適格要件の適用対象の限界と是正―元親法人の支配概念に着目して―」
本論文の構成は次のようになっている。
第1章では、我が国の組織再編税制は、会社法の概念を前提として税制適格要件が構築されていることから、まずは会社法における会社分割の法的性質を検討している。第2章では、スピンオフ税制における課税繰延理論を考察するために、組織再編税制における支配概念の遷移を検討し、次に組織再編税制に係る包括的否認規定を検討している。第3章では、平成22年度税制改正以降、「グループ法人の一体性」が重視される一方、「事業の継続性」の概念が相対化ないし希薄化され、すなわち、組織再編成における課税繰延概念が「柔軟化」したことが検証できたとしている。第4章では、米国における法人分割税制を考察し、各税制適格要件規定等が個別的租税回避否認規定の集合体として機能し、法人分割が租税回避に利用されないよう、重要な役割を果たしているという知見を得たとしている。以上から、恣意的な分割によって、事前に買収、合併計画があるような場合には、その分割法人には課税するという個別否認規定の提言をしている。
筆者は、税務当局側のスピンオフ税制の導入の趣旨が明確に表されていないことから、法人税第132条の2による包括的租税回避の否認規定を発動することが難しいことをあげて、個別否認規定を用いるべきとの提言をしている。非上場企業の場合には、経営者や主要株主が選択的に事業を切り出す恣意性を排除することは難しく、結果として租税回避の余地が生じるため、分割前に分割法人が他の者によって支配される計画があり、分割後に分割法人が吸収合併されても適格要件を満たしてしまう「非支配継続要件」は課税の中立性の観点から疑義が生じ「最上位の法人」による支配の考え方を一律に適用することは適切ではないと考えている。そして法人税法第132条の2の包括的否認規定は、個別規定の趣旨、目的から逸脱する際の補完的な役割の位置づけであるとの見解の下、スピンオフ税制の場合には、各規定の本来の趣旨及び目的が明確とは言い難いことから、法人税法第132条の2の適用は難しいとして、それに代わって個別否認規定を設ける、あるいは適格要件に適格スピンオフの濫用の防止に資するものを追加すべきとしている。
会社法の分割と税法の分割が異なることを確認した上で、グループ法人税制導入後の支配概念が相対化ないし希薄化したと分析すること、また裁判例の検討から、「グループ法人の一体性」が重視される一方、「事業の継続」の概念が相対化したとし、これを「支配の継続」から「非支配の継続」に遷移したことの関係で、「軌を一にしている」と理解することは、どちらも論理として成り立つ。また、アメリカのMorrisTrust取引を検討対象に選んだことも評価でき、最終的な結論も説得力があり、相当の評価ができる論文であることは間違いない。
最後に評者として付言すると、スピンオフ税制の導入の趣旨については、筆者の言う通り税務当局側の明確な解説がなされている訳ではないが、スピード感ある事業再編を進めるために企業内の事業部門を分離して独立した企業とするためのスピンオフの必要性を説いていることから、企業を2分割した後でも、分割承継法人の新企業においては支配の継続を要件とし、分割法人の既企業においては支配の継続を要件としていないのは、企業の自由度を高めて、グループ企業の迅速な編成が高められることを期待しているので、どちらを分割法人にして、もう一方を分割承継法人にするかは、筆者が指摘しているように、明らかに租税回避と見られる処理である場合には別として、包括的否認規定を発動しないということであろう。企業の自由な行動を攪乱しないように、公平性から中立性に重きが移ってきたことを注視することは筆者の指摘通りである。「非支配継続要件」以外の継続要件も含めて、見込基準であることから、経済的合理性でもって適格か否かを判断するとなると、個別的否認規定を追加することもなく適格要件とのセットで包括的否認規定を用意しておけばよいという見解もあろう。このことはあくまでも評者の私見であって、筆者の業績に異議を唱えるものではない。