酒井 洋輔 稿「越境サービス取引における『消費地主義』の理論的脆弱性と執行上の課題―ドイツ売上税法を素材として―」
酒井 洋輔 稿 (慶應義塾大学大学院 院生)
「越境サービス取引における『消費地主義』の理論的脆弱性と執行上の課題―ドイツ売上税法を素材として―」
本論文は、ドイツ売上税法における越境サービス取引への対応を素材として、理論と実際の両側面から消費地主義の妥当性を検討するものである。
第1章では、消費税の基礎とその性質と中立原則を検討する。第2章では、国際取引に係る消費課税における課税権配分ルールを分析する。第3章では、ドイツ売上税法を概観し、越境サービス取引への対応を確認する。第4章では、ドイツ売上税法における消費地主義の実現とその問題点を検討する。第5章では、理論的及び実際的観点からみる消費地主義の課題を明らかにし、第6章では、越境サービス取引における今後の方向性として、消費地主義の部分的放棄、原産地主義の限定的採用、消費税型租税条約の締結を提言する。
越境サービス取引の給付地判定ルール(課税指針)である消費地主義、仕向地主義、付加価値主義、原産地主義のうち、「消費地主義」の妥当性について、理論と実際の両面からアプローチしたタイムリーな論文であり、筆者の問題意識は鋭い。ドイツの売上税法をとりあげ、ドイツでも消費地特定や執行管轄権の問題等により、消費地主義の実現が限定的であることを指摘する点は説得力がある。本論文は、ドイツ語文献だけでなく、関連の英語文献を参照して、EU法の影響にも触れながら、ドイツ売上税法をよく咀嚼したうえで丁寧かつ丹念な分析に基づき議論を展開した高水準の労作であり、この分野の学問への貢献度は高い。
論文では、消費税の基礎に始まり、越境取引を律する国際課税の基礎理論の分析も行ったうえ、消費税における越境サービス取引を検討する。ただし、国際課税における課税権配分基準としての経済的帰属原則が消費税にも適用できる旨を紹介するが、その検証がされていない点は気になる。
今後の国際取引に係る消費課税の方向性についての筆者の若干の提言として、消費地主義の部分的放棄、原産地主義の限定的採用、消費税型租税条約の締結可能性の3つを示唆しており、さらなる考察を行うことにより、本研究の水準が一層高まったと思われる。比較法分析から日本法への示唆という点で課題は残るが、租税資料館奨励賞に相応しい論文であると高く評価できる。